ぬいぐるみ、ではない何か
大黒天半太
ぬいぐるみ、であり、でないもの
発生、もしくは誕生。
かつて、それが生まれた時、それは小さな布を縫い合わされ、綿を詰められた、小さなぬいぐるみだった。
その形と大きさにふさわしい、愛情をもって可愛がられることを想定した、小さなかわいいぬいぐるみとして、それは出来上がり、いくつも作られた。
小さな子供用のサイズだが、実際、そんな小さな子供には、それが何を象っていて、どうやって遊ぶものかもよくわからないだろう。
サイズと相応した手頃な価格から、買われ、与えられたもの。
それゆえに、買い手の、与え手の思いは、希薄で軽い。
簡単に与えられ、粗雑に扱われ、簡単に棄てられる。
その扱いにふさわしい程度の存在であり、その存在価値は、与えられた者へも投影される。
それを与えておけばよいだろう、それを与えているから十分だろう、という考えは責任回避の発想で、実態は
そうした現場で、保護者の言い訳のように、与えられた、その類いのぬいぐるみは、愛情ではなく、むしろ、責任回避、遺棄の証拠のように散見された。
愛情を注がれ、可愛がられ、そのご機嫌の象徴となるべきものが、全く逆の、無関心と没交渉の証と成り果て、転がる。
そして、それの置かれた状態は、それを与えられた対象に準じたものになっている。
その中でも、いくつかのものは、その状況に抗った。
玩具としての分を超え、主である幼児に、こっそり囁きかけ、体を張って守り、愛情を注いだ。
創り主がぬいぐるみに期待したことを想い、贈り主が対象に与えなかったいろんなものを、精一杯与えようとした。
その試みは、成功することもあれば、失敗することもあった。
成功した時は、子供は愛情不足を免れ、健やかに育つこともあったが、これを与えておけば良いと、贈り主に新たな誤解を生んでしまうこともあった。
失敗した時は、最悪、主である子供を喪った。
そして、小さく無力なぬいぐるみ達は、喪った主と喪われるかも知れない主のために、力を集めることにした。
自らつくもがみと化し、喪われた、喪われるかもしれない主を守るために。
ぬいぐるみ、ではない何か 大黒天半太 @count_otacken
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