KAC20232 🐷ピニーの大冒険

オカン🐷

  ピニー縫いぐるみになる

 キッチンで水を飲んでいたピニー。

 玄関先の男の声に気付いた。

「ほら、この鍵だ。プレビューから取り上げた鍵」

「おお、いいから早く入れ」

 ピニーは足音を立てないように、それでいて迅速に2階への階段を駆け上がった。

 お兄ちゃんとかくれんぼするとき、いつもそうしていたから得意だった。

 2人の男はリビング、ダイニングに誰もいないのを確かめてから、階段に向かってやって来た。

 わあ、どうしよう。隠れなくちゃ。

 男たちは部屋の扉を開け、誰もいないのを確認している。

 パパとママの部屋に入ったみたい。

「浴室と風呂も見たか?」

「ああ、クローゼットは?」

「見た、見た。次、行こうぜ」

 イヤだな、こっちに近付いてくる。

「うわ、ゴミだらけだな。ちょっとは掃除しろよ」

 どうやらお兄ちゃんの部屋にいるようだ。

「この部屋にあるのはゴミだけだ」

「おい、こっちの部屋は鍵がかかっているぞ」

 扉の把手をガチャガチャと揺する音がする。

「そこはプレビューの部屋だ。いつも鍵をかけていると言ってた。獲物はいなさそうだ。最後の部屋を確認して、とっとと帰ろうぜ」


 どうしよう、こっちに来る。

 クローゼットを開けた男は中を見て言った。

「ここは女の子の部屋だな。縫いぐるみだらけだ」

 わあ、こんなに近くにいて心臓の音聞こえへんかな?

 ドッキン、ドッキンて。

「うちの娘に1つもらって帰ろうかな」

 男は目の前のウサギの縫いぐるみの耳を摘まみ上げた。

 止めて、その子が一番のお気に入りやねん。

「やめとけよ、娘には新しい縫いぐるみ買ってやれ。この仕事が終わったら大金が入ってくるんだぞ」

「ああ、そうだった。人間はどうしてあんなに子豚の丸焼き食いたがるんだろうな」

 ピニーは声を上げずに泣いた。

 私、食べられちゃうの?

 男たちが階段を下りて、玄関を出て行く気配がしても、ピニーは縫いぐるみに埋もれ守られたままじっとしていた。

 ママ、早く帰って来て。



    了



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