園長先生のおにぎり

冥沈導

てるてる坊主の園長先生

 『にぎめし』の休業日。

 椿つばは二階の自宅で部屋の片付けをしていた。


「うっわ、なんかいっぱいあるなー」


 押し入れを漁ってみると、数年前に買った『お米の美学』や『美味しいお米の炊き方』、『海苔の巻き方』など、おにぎり関連の書籍がいっぱい眠っていた。


「これもこれも古いなー、捨てるの勿体ないし、売りに行くかな」


 取っておくものと、売るものを分けていると。


「ん?」


 何かが押し入れから落っこちた。


 それは、手のひらサイズのおにぎりのぬいぐるみだった。


「これ……、懐かしいなー!」


 白いフェルトが黒い糸で縫われ、その上から真ん中半分を覆うように、長方形に切られた、黒いフェルトが白い糸で縫われた、縫い目が丸わかりな、三角のおにぎりぬいぐるみ。


「……本当に懐かしいな」


 椿佐は愛おしそうにぬいぐるみを手に取った。


 不格好で、三角よりは台形に近い、少しくたびれたぬいぐるみ。


 これは、椿佐が入っていた児童養護施設『えん』の、園長からの贈り物。





『親友の一門いちもんが、椿佐を娘として受け入れてくれるのは嬉しい! だが! 椿佐がいなくなるのは寂しいぞー! だから! これを作った! おにぎりが好きなお前へっ、俺からの贈り物だ! これで俺のことを忘れないでくれー!』






「って、号泣しながら渡されたんだよな」


 椿佐は思い出し、ははっと笑った。


「最初、中の綿もはみ出ていて、後であたしが縫い直したんだよな」



『これで俺のことを忘れないでくれー!』



「……忘れるわけないだろ。立宮たてみやみたいに目つき悪くデカいのに、あったかくて、てるてる坊主みたいな頭で、みんなの心を晴れにしてくれる、先生なんてさ」


 椿佐はおにぎりのぬいぐるみを押し入れにそっとテーブルに置くと、ソファに置いておいたスマートフォンを手に取った。


「よし! いい機会だ! ぬいぐるみの洗濯のやり方を調べてみっか! 確かぬいぐるみシャンプーみたいなのもあるんだよなっ」


 そして、嬉しそうにスマートフォンで検索し始めたのだった。



−−−−−−


 あとがき。


 園長先生は寂しがり屋です(笑)


 あ、二人のイメージイラストできました。

 よければこちらから(近況ノートに飛びます)↓

https://kakuyomu.jp/users/michishirube/news/16817330654046599054


 このスピンオフで、もし、興味を持ってくださいましたら、よければ本編もー↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330649991600747

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