合わせる顔
月下美花
第1話
姉は怠惰なエゴイストだった。
仕事から帰ってくると、自分は王であると言わんばかりの態度であった。自分で選んだ進路、仕事であるのにそれらの文句を延々と周りに聞かせ続けた。今思えば、自分の中で折り合いをつけることができなかったのだろう。他人の行動が気に入らなければ怒鳴るくせして、他人の意見には耳を塞いで、その場しのぎの返事のみである。そんな様子なので、親ももうほとんど諦めてしまっている。
谷村正幸はそんな人間が生まれた四年後生まれた。戸籍上は弟であるが、双方にそんな意識はもはやなかった。単に、奴隷と領主の関係であった。
正幸は卑屈である。それは生来の部分もあるのであろうが、姉の正幸への態度もいくつかの原因であったのだろう。そんな有様なのでなにか失敗するたびに、すぐ塞ぎ込んでしまっていた。これにも、親も手を焼いていた。このような態度が姉のイライラを助長してしまっていた。何より、正幸自身が姉からの仕打ちの原因が自分にもあると考えてしまい、ますます卑屈になっていた。
ある日、姉が帰ってくるといつものように周りに当たりだした。 その日は、余計に酷く、正幸に対して、脚立だとかで、殴りつけた。その時ばかりは、正幸も、このままでは殺される、と考えたのだろう。姉を殺した。
正幸もその瞬間にやってしまったのではない。家族が寝静まってから、ガムテープで口を塞ぎ、絞め殺した。姉も抵抗したが、一般男性と一般女性である。
その後、それを近くの山に埋めた。途中で、親に悪いなだとかも思ったが、正直、そこまで悪いとはかんじなかった。それを穴に入れる直前でそれの髪や肌が妙にデラデラして、生きているように思えた。正幸は、途端に怖くなって、それの顔を、潰してから埋めた。
埋め終わると、ふと、我に返り、なんてことをしまったのか、どうしよう、となった。逃げるにも、埋めた地点には顔を潰した時に、飛び散った、破片がある。すぐにばれる。正幸はその場でうずくまってしまった。殺したそれは、腐っても人間である。それの普段の行いなどを思い出して正当化する余裕などもはやなかった。もう、誰にも合わす顔などない。しかし、人は一人では生きてはいけない。考えた末に、川に飛び込んだ。
翌日、川にある大きな岩に頭から突っ込んだためと考えられる、顔がぐちゃぐちゃになっている死体が見つかった。
合わせる顔 月下美花 @marutsuki
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