wave5
ママ
「気をつけるのよ。何かあったらすぐ戻ってきなさいね」
パパ
「絶対に危ない橋は渡るなよ。死なないって約束、守ってくれよ!」
スイカ
「わーかったよ! もういいでしょ! いくよ」
両親が空港まで送りにきてくれた。
しかし、かれこれ30分ほどこの押し問答が続いている。
前回の旅行から半年ぶりに沖縄へいく。
しかし今度は旅行じゃない。
前回より大きめのスーツケースを空港に預けて、手荷物検査を後にする。
胸の鼓動がどくどく高まる…!
—通知の音
ママ
「お昼食べた? 出発ゲートわかる? 早く行かないと遅れちゃうんじゃない??」
ママからのLIME通知が止まらない。
出発ゲート付近に座るスイカは数十分待機して、CAの案内が入り機内へと乗り込んだ。
機内に乗り込むや否や隣の乗客がぶつかってきた。
スイカ
「ちょっ、すみません」
??
「あ?」
そこには肩ほどある黒髪を後ろで縛り上げた青年が横に立っていた。
172cmあるスイカより少し大きいその男は一見すらっとして見えるがフィジカルがアホほど強かった。
スイカはぶつかった衝撃を利用して自分の席に移る。
さっきの青年、顔は女性とも見間違えるほど端正なのに態度がめちゃくちゃでかい。
不思議そうに見ていると隣の席にその青年が座ってきた。
??
「おい、何見てんだよ?」
スイカ
「いえ! なにも!」
あっそ、とイヤホンを取り出し大股に座る青年。
窮屈な空の旅が始まりそうだ。
スイカは眠りに入っていった。
那覇空港に着くとおばあちゃんがスイカを出迎えにきていた。
おばぁ
「スイカー! こっちねー!」
スイカ
「お! おばあちゃーん!」
おばあちゃんと空港にある沖縄そば屋でお昼を食べた後、数少ないバスを使ってお家のある恩納村を目指した。
おばぁ
「なに、スイカちゃん。あんたウォーターマンっちゅうものになりたいんだって?」
スイカ
「うん。おれのおじいちゃんもそうだったんでしょ?」
おばぁ
「うーん、それがねぇ。あの人、私にはちっともそのウォーターマンってやつがなんなのか、教えてくれなかったんさ」
2人が出会う前からおじいちゃんはウォーターマンだったらしいのだが、なにぶんおばあちゃんはあまり世間のニュースや事情に興味がない。
スイカはウォーターマンとはなんぞやをおばあちゃんに事細かに教えているとバスは恩納村に到着した。
おばぁ
「今日は疲れてると思うから、早くお家に行きましょうね。私もだいぶ疲れた」
ヘロヘロになったおばあちゃんの背中を押して家へと向かう。
明日は入学式だ、今日のうちに早く寝ておこう。
おばぁ
「あ! そうだスイカちゃん、あれ渡しておくべきだね。サーフィンやるんでしょ?」
スイカ
「サーフィンだけじゃないけどね。SUPもカヤックも海のゴミ拾いとか、ウォーターマンは海のことなーんでも色んなのやるんだよ」
はいはい、とおばぁちゃんがスイカの手を引いて裏庭の倉庫にやってきた。
おばあちゃん家は伝統を感じる昔ながらの琉球家屋だが、裏の倉庫は割と新しかった。
ガラガラと音を立てて開けるとその中は薄暗いガレージになっている。
—電気をつける音
おばぁ
「これ、おじいちゃんが使ってたんさ。スイカちゃんにあげるから、自由に使いな」
スイカ
「…ええ?! いいの?!」
ガレージの中はサーフボードの調整をするシェイプルームが中央にあり、周りには多くのサーフボードが並べられている。
それに加えて酸素ボンベやフィンなどダイビングに必要な道具から釣竿にモリなど、マリンスポーツに欠かせない道具がひとしきり並べられていた。
スイカ
「これクラークフォームのデッドストック?! これおじいちゃんの?! しかもこんなたくさん…!」
スイカはこの半年、ウォーターマンに関すること情報は全て調べたし、経験者から話も聞いた。
だからわかる。
このガレージにあるものがどれほど素晴らしいか。
マニアなら垂涎ものばかりだということに。
スイカ
「おばぁちゃん!! ここなに?!」
おばぁ
「邪魔でねぇ、ここの全部処分しようと思ってたんさ」
スイカ
「だめだめ!! ダメだよそんなの。ゴミ捨て場から一千万円出てきましたみたいなノリだよこれ」
邪魔などもってのほか、しかも処分だなんて!
もはや博物館だ。
そんなスイカの剣幕におばあちゃんは若干引いていたが気に入ったなら良かったとお家に戻って行った。
スイカ
「すげぇ…なんだここ…」
口があんぐり開いたままあたりを見回す。
台の上に封された手紙が置いてあることに気がついた。
おじいちゃんがどんな人か分かるかもしれないと思い中を覗く、が白紙だった。
封に戻そうと裏返す。
裏ページに小さく「wait at sea」と書かれているのを発見した。
宛先はスイカパパに向けてのものだった。
スイカ
「パパもウォーターマン目指してたんだ」
親がどんな思いでスイカを止めていたのか、おじいちゃんが何を考えていたのか。
それはまだ良くわからないが、更に強いウォーターマンへの憧れを持った。
祖父、父、世代を超えた夢を叶えたい、そうスイカは強く感じた。
おばぁ
「スイカちゃーん! ご飯だよー!」
スイカ
「はーい! 今行くー!」
キラキラと光る海、観光地の万座毛を讃えながら夕陽が落ちていく。
こんな綺麗な場所でご飯を食べられるなんて、なんて贅沢。
ご飯をかき込む。
明日は入学式。
Dive to Blue タナカ @reek-2023
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Dive to Blue の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます