wave4

 この2日間でウォーターマンについてめっっちゃくちゃ検索し、関係あるサイトは全て調べ尽くした。

 ハワイに関係があること、海に関係があること、様々な情報が出てきた。

 しかし、その中に一つ気になるものを発見した。


「WATER MAN : Mr.KAIDO SAVES KIDS」


 と見出しされた英字新聞だ。

 そこには白黒写真でめちゃ屈強そうな男性が写っている。

 名前は同じだがパパとは似ても似つかないムキムキ具合だ。

 あれやこれやと思考を巡らしているとキッチンから良い匂いが漂ってくる。


「さ! スイカちゃん! 今日はグルクンの唐揚げさ!」


 おばあちゃんが山積みになった魚の唐揚げを持ってきた。

 食卓を囲んで豪華なディナーが始まる。


スイカ

「ねぇねぇそいえばさおばあちゃん、おじいちゃんの話ってあんま出てこないけどさ、どんな人だったの?」


おばぁ

「それはもう強くてやさs…」

—咳払いをする音


 スイカパパは「おじいちゃんは昔に死んだんだ」と、ぴしゃりと言い放つ。

 おばぁちゃんが少し悲しそうな顔をするとママも居心地が悪そうにもじもじしだした。

 明らかに空気が重い…

 しかし! 

 好奇心を持った中学生は止められない。


スイカ

「これさ、この人知ってる?」


 恐れ知らずのスイカはさらに捲し立てる。

 先ほどの英字新聞をおばあちゃんにパッと見せるとおばあちゃんはひっくり返る。


パパ

「す、すいか…これをどこで…」


スイカ

「やっぱパパ何か知ってるんでしょ!!」


 むむむ、と凄むスイカ。

 その圧に負け、やっと話す気になったらしい。


パパ

「この話、あまり話したく無かったんだ…なんだかスイカが興味を持って同じ運命を辿ってしまうような気がするんだよ…」


ママ

「まぁまぁ、スイカちゃんももう中学3年生だし…そんな危ないことはしませんよ」


パパ

「うむ…けどな、さっきも海で…」


 ここまできても勿体ぶるか! 

 話してあげてと、おばあちゃんからの一押しで遂に語り始めた。


パパ

「今日助けくれた人いるだろ、ウォーターマンって言ってた人。それと同じだったんだよ、おじいちゃん」


スイカ

「ウォーターマンってなんなの?」


パパ

「ウォーターマンっていうのはな…うーん、めちゃくちゃ簡単にいうと海を愛し、海に愛された人だ。釣りにマリンスポーツに、海難救助もお手のもの」


スイカ

「うんうん、で? それで?」


 爛々と目を輝かせるスイカとは別に、もごもご口をつぐむスイカパパ。


パパ

「昔、家族でハワイ旅行に行った時な、パパもスイカみたいな目にあったことがある」


スイカ

「それでそれで?」


パパ

「その時な、ちょうどおじいちゃんがキッズ向けにサーフィンスクールを開いていたんだけど、パパ含め多くの子供たちが波に巻き込まれてね」


スイカ

「それでおじいちゃんが助けてくれたの?」


パパ

「そう。命懸けでね」


 最後の1人を助けるため、波に向かって泳ぎ出した後、帰らぬ人となったらしい。

 結局その1人は遠くの桟橋付近に打ち上げられていたところを地元の漁師が発見したらしいのだが。


スイカ

「カッコいい…カッコ良すぎる…」


パパ

「そう言うと思った…だから話したく無かったんだよ…」


 おばあちゃんはいまだに転がっている。

 スイカの携帯を見て過去のおじいちゃんに浸っている。

 パパがあまりおじいちゃんについて話したがらない理由や海を毛嫌いする理由が少しわかった気がする。


 しかし! 

 スイカの頭の中にはすでに2人もウォーターマンが存在している。

 自分もなりたい! 

 憧れるには十分すぎた。

 あんなに苦しい思いをしたはずなのに不思議と海に対する恐怖心はないし、泳ぎたいとすら思っている。


 そして、この経験は後に憧れへと変わり、やがて進路へと影響していく。


 おばぁちゃんにさよならをした後、帰りの車内でさらにウォーターマンについて調べていた。

 そのところSNSである投稿を目にした。


【きみもウォーターマンにならないか?】

【サーフィン、ヨットにダイビングetc…】

【海が好きな人全員集合!】


 いいねは3つしかない。

 けど気になってその投稿主のアカウントページに移ってみる。

 プロフィール欄には


「美浜高校 水人部 新入部員大歓迎! (可愛いマネージャー待ってます)」


 と書かれている。

 フォロー数フォロワー数共に決して多くはない。

 けど、投稿されたのはつい最近だ。

 このタイミングでこの投稿を見つけるとは、もはやこれは自分に向けての呼び込みなんじゃかいか?! 

 この時にはもうスイカの頭から「都立の進学校」や「有名私大付属の高校」に行く進路は1ミリたりとも残っていなかった。

 

スイカ

「パパ、ママ。聞いてほしい」


パパ

「いやだ」


スイカ

「なんでだよ!! まだ何も言ってねーよ!」


 ノリノリの音楽だけが車内に響いている。

 

スイカ

「おれ、美浜高校に行きたい」


 顔は見えないが、明らかに運転が荒くなる。パパの動揺がわかった。


ママ

「だってスイカ。あなた頭良いし運動できるし、都内の有名高校入れるのよ?? みはま高校だっけ? そこに有名大学の指定校とかないんじゃないの?? そんなのもったいないわよ」


スイカ

「そんなことどうでもいい」


ママ

「そんな、一瞬の思い付きで決めて後悔するわよ」


 助手席から何度もストップがかかる。

 けどスイカは諦めない。


スイカ

「違うんだ。おれ今までこんな憧れなんて持ったことなかったんだよ。こんなにドキドキすることなかったんだよ!」


パパ

「もう少しちゃんとよく考えてくれ!」


 この攻防は飛行機の中でも家の帰り道でも続いた。


パパ

「俺、風呂入ってくるな」


—ドアが閉まる音

  

ママ

「ねえねえスイカ。パパはね、あなたの夢を応援したくないわけじゃないのよ」


スイカ

「そんなのわかってる。どうせ突発的なものだとか思ってるんでしょ?」


ママ

「パパもね、海は好きなのよ」


スイカ

「ふーん」


ママ

「でもね、目の前であんなことが起こっちゃったらトラウマになるでしょ? おじいちゃんを奪った海に愛する息子まで盗られたくないのよ」


スイカ

「…」


 スイカはじーっと、だまって少し考えた。


スイカ

「よしわかった」


ママ

「ほんと?」


スイカ

「うんわかった。死ななければいいんだろ?! 絶対に死なない!」


ママ

「は?」


スイカ

「絶対に死ななければ良いんでしょ?!」


 そう結論が出た。その結論を持ってスイカパパのいるお風呂場に駆け込んだ。

 浴室のドアを思いきり開け


—ドアが思いっきり開く音


スイカ

「おれ絶対に死なないよ! まじフラグじゃないから! 絶対に死なないからさ!!! 約束は守るからおれ!!」


パパ

「うわ!! なんだいきなり!」


 その後、何週間もかけて圧をかけまくった。

 そのスイカの思いと行動は結実し、あまりのしつこさに耐えかねたパパは「死なない」「危ないことはしない」という条件付きで美浜高校に願書を出すことを渋々許した。

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