wave3

 思いっきり反転するスイカの体。

 足は空、頭は海底を向いている。

 その不意打ちに呼吸の切り替えが追いつかず、思いっきり鼻から水を飲んでしまった。

 勢い良く流れ込む海水に呼吸が止められる。


スイカ

「く、くるじぃ」


 海中で目を開けると、元いた浜辺から遠く離れていた。

 一瞬のうちに沖まで持って行かれたのだ。

 スイカの口から大きな気泡が漏れ出す。

 あんな安物のサンダル、取りにこなきゃよかった…そう後悔しても遅い状況。

 終わりだ。




—波を切る音


 スイカはだれかに抱かれている。

 海中から顔を出し、気管に詰まった海水をげほげほと吐き出す。


??

「大丈夫か? 意識はあるな!」


スイカ

「ぐはっ、げほげほげほっ!」


 あっという間にスイカは浜辺に移動していた。

ブロンドの髪をまとめた男性はスイカの胸に手のひらを組み、置いた。


スイカ

「ちょっと、げほ! まって!」


??

「??」


 心肺蘇生が始まるとわかったスイカは咳き込みながら必死に止める。

 下手したら肋骨や剣山が折れられかねない。

 あらかた水を吐き終わって一呼吸し、落ち着く。

 ここで初めて、自分が死の淵に立っていたこと、そして生きて帰ったことに安心を感じた。

 中学3年生には重すぎた。

 誰だかしらない男性の胸元で大泣きするスイカ。

 ブロンドの男性は黙ってスイカを見つめる。それに気づいたスイカは必死に泣くのを我慢してお礼を言う。


スイカ

「ぐすん。ひっぐ。ありがど、ありがどうございまず…ずび」


ブロンドの男

「痛むところはないかね?」


スイカ

「はひ…大丈夫でず…」


 鼻水をズビズビ啜りながら返事する。


ブロンドの男

「良かった。親御さんは近くにいるのかい?」


スイカ

「いまぜん…」


 少し呆れた顔をしたブロンドの男性。

 注意しようとしたら後ろから声がした。


パパ

「スイカ…スイカ!!! 何やってんだこの馬鹿野郎!!!」


 やっぱり追ってきたパパが到着した。

 顔面蒼白、海の青さに引けを取らないほどの青さで駆け寄ってくる。


パパ

「このバカ! この方がいなかったらどうなってたことか!! 本当にすみません! 本当にありがとうございます! …ほんとに無事でヨがっだ…!」


 今まで見たことのない怒りようだった。

 自分の父親が泣いたところを初めて見た。

 その驚きでスイカの涙は引っ込んでしまった。


ブロンドの男

「いいんですよ、無事だったなら。ほら、君、これ取りに海入ったんでしょ?」


 ブロンドの男性はサンダルを渡してくれた。


パパ

「こんなもののために!! こんなんいつでも新じいの買っでやるがらもう海に入るのはやめでぐれ!!」


ブロンドの男

「いや、ゴミそのままにしちゃだめ。海汚すのはいけませんよお父さん」


パパ

「ず、ずみまぜん…」


 スイカに後遺症が何もないことを確認すると「じゃ、あとのことは任せますね。」と、男性は立ち去ろった。


パパ

「あの! お名前教えてもらってもよろしいでしょうか? 息子を助けていただいたお礼をさせてください!」


ブロンドの男

「私はウォーターマンです。お礼なんて必要ありません」


 こちらにニコッと笑ってすぐに去っていった。


 そのあとはもう、パパママにこっぴどく叱られた。

 けどおばあちゃんは命があるならそれで良かったとニコニコ頭を撫でてくれる。

 泣きながらかじった特製サーターアンダギーの甘さは心に沁みた。



 この日からスイカは、沖縄旅行には目もくれず、一心不乱に調べまくった。


 「ウォーターマン」


 その言葉がスイカを虜にしてる。

 ウォーターマンとは何か? 

 名前なのか職業なのか? 

 もしかしたらあれはエイリアンだったのでは?とさえ思った。

 どこからともなく現れて命を救った命の恩人。

 もうウォーターマンへの憧れは溢れ出して止まらなくなっていた。

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