wave2

—機内アナウンス

「この飛行機は、ただいまからおよそ20分で那覇空港に着陸する予定でございます。
ただいまの時刻は午後13時20分、天気は晴れ、気温は29度でございます」


スイカ

「え?」


—空港のアナウンス

「はいさーい!」


スイカ

「は?」


—-車の中

スイカ

「…え、なんで起こしてくれなかったの」


パパ

「気持ちよさそうに寝てたから、ね? ママ」


ママ

「めちゃくちゃ寝てたわね」


 空の旅を楽しみにしていたスイカ。

 そのほとんどを見ることができずに不貞腐れている。

 エアコンを入れても蒸しちゃう暑さに車の窓は全開になっている。

 スイカの下がりきった口角に強い日差しが当たっている。


パパ

「まずは国際通りかな! いや、アメリカンビレッジだよな! うーん、やっぱまずはお昼だな! 沖縄そば行こうか!」


ママ

「おばあちゃん待ってるんじゃないの?」


 前の座席では両親がナビをいじっている。

 窓から見える海をスマホでパシャリ。

 東京のタケルに送る。


スイカ

「みて、超綺麗」


友達

「着いたのか」

「いいなー!」

「ちょーきれい」


スイカ

「この後沖縄そば食うわ」


 おばあちゃん家は恩納村にある。

 那覇から車で1時間ほど走れば着く場所だ。

 海堂一家は時々帰省するのだが、前回の帰省から約2年も経っていた。

 綺麗な海をぼーっと眺めるだけでも心地よい。

 それはスイカを睡眠へと誘った。



—車がバックする音

パパ

「おい、スイカ、着いたぞ」


スイカ

「…」


ママ

「スイカ! 起きなさい!」


スイカ

「…え? もう着いたの?!」


 またしても楽しみだった海を見逃してしまった。

 不貞腐れてドアを開ける。

 すぐに鬱屈した気持ちはスカッと晴れた。

 おばあちゃん家からは綺麗な恩納村の海がよく見える。


おばぁ

「よくきたねえ!」


スイカ

「おばあちゃん! おひさ!」


 おばあちゃんは優しい口調と笑顔で海堂一家を出迎えた。


パパ

「おかぁ、一応スーパーで買ってきたけどこれで足りる?」


おぱぁ

「おおお、ありがとね! これだけあれば十分さぁ!」


ママ

「お母さんお久しぶりですー!」


おばぁ

「リコちゃん! いつ見ても可愛いわねえ」


ママ

「やだもう!」


 ママはおばあちゃんをバシバシ叩いているが、それでも幸せそうに笑って動じないおばあちゃん。

 優しいのだか体感が強いのだか。


スイカ

「おれ、ちょっと海見てきてもいい?」


おばぁ

「いいよいいよ。あ、これ渡しときましょうねー」


 おばあちゃんに渡されたサンダルに履き替えて浜辺目掛けて一直線に走る!


パパ

「おーい! スイカー! 危ないから1人で海入るなよなー!」


ママ

「あ! スイカー! 帰りにコンビニで飲み物買えたら買ってきてー!」


スイカ

「わかってるってー!」


「元気でいいねぇ」と笑顔のおばあちゃんは出汁の様子を見にキッチンへ向かった。

 スイカパパは心配そうにスイカの背中を見つめている。


ママ

「あなた、大丈夫よ。もうスイカは中学生よ。1人で海に入ったりなんてしないわ」


パパ

「う、うん…でもちょっとやっぱ心配だから俺も行ってくるよ」


 後を追うつもりだったスイカパパはキッチンの方から声がかかり仕方なしに家の中に入っていく。

 

—スイカの呼吸音

 息を切らして浜辺にたどり着いた。

 目の前には太陽に照らされてキラキラ反射した海が押し寄せている。

 透明度抜群の海に足を浸し深呼吸する。


スイカ

「んんんんはぁぁぁぁあ、やば、きもちい」


 海の冷たさはやはり気持ちいい。

 刺すような熱い日差しと呼吸を遮るような熱気を一気に吹き飛ばした。

 遠くまで続く砂浜は奥の方がリゾートホテルの砂浜になっている。

 そこはたくさんの観光客で溢れかえっているがスイカの周りには人がいない。

 この海は今スイカだけのものだ。


「んんんんやっほぉう!」


 普段よりテンションが上がり変な声を出す。

 水を蹴り上げて跳ねた水が軽やかに水面に落ちる。

 波は引き際にスイカの足を砂に埋めた。

 その感触がなんとも言えないクセになる。

 スイカは肺を熱い空気いっぱいで満たし、満足して空を見上げ、また大きく一呼吸した。


—ぐぅ


お昼も何も食べてないお腹はさっきから鳴りっぱなしだ。

 振り返って波から出ようとした。


「あっ」


 足を浮かせた直後、サンダルが波に盗られた。


「まずっ」


 安物のサンダルだけど手の届く位置に浮かんでいるので取りにいく。

 しかし、無常にも波はサンダルをさらに遠のけた。


「え、えぇ。ちょっとまてよ」


 濡れるのも嫌だけど…

 ここは防護ネットも張られてないため、流されちゃったらもうサンダルを探すことは不可能だ。

 泳いで取りにいくことにした。

 波も穏やかだし、こんなに熱いからいっそのこと海に入りたいとさっきから思ってた。

 ちょうどいいや、そんな軽い気持ちだった。


 腰ほどまで浸かり、ようやくサンダルに手が届いた時それは急にやってきた。

 スイカを飲み込めるほどの大きい波が現れた。

 引き潮の強さが段違いだったのかスイカの足はひょいとすくわれた。

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