Dive to Blue

タナカ

wave1

【2学期始業式】


友達

「ええええ!お、沖縄の高校?! おま、沖縄って、ええ?!」


スイカ

「うん、もう願書出した」


—ドアを引く音


先生

「みんなおはよー 始業式のリハーサルやるから体育館向かえー」


友達

「まぁスイカのことだから何か考えがあるんだろ? あーあ、お前と遊べなくなるやん」


スイカ

「ごめんな、そう言ってくれてありがと」


 中学3年生のスイカは沖縄の高校に進学を決めた。

 それはなぜか、夏休み前まで遡る。



【1学期終業式】

—チャイムの音


先生

「それじゃーみんなー! 夏休みは危ないこととかしないで元気に過ごして下さいねー」


友達

「スイカは沖縄旅行かぁーいいなあー」


スイカ

「入試始まる前に行っておこうってヤツよ。親が「スイカが忙しくなる前におばあちゃんに顔見せに行くよ!」って張り切っちゃってさ」


友達

「そっかぁ、お前難関校受けるんだっけか? 夏休み終わったら時間なくなるもんなー」


 中学3年生の海堂翠華は受験を控えていた。

 学校の成績は上位をキープ。

 部活でもサッカー部として副部長を務める。

 内申点も成績も申し分ない。

 何をやっても平均以上。

 ただこれと言って秀でたものは特になかった。

 それ故、生まれてこの方、何かに熱中したことがない。

 進路も親からの期待で難関高を目指していた。

 それ以外は考えられないし本人もそのつもりだった。


友達

「じゃ、沖縄楽しんでこいよな」


スイカ

「サンキュ、機嫌良かったらおまえにお土産買ってきてやる」


友達

「なんだそれ、ぜってぇー買ってこいよ! 紅芋ちんこだっけ? それお願い」


スイカ

「そんなんねーよ」


——翌朝

(目覚まし時計のなる音)


パパ

「おーい、スイカー、そろそろ出発するぞー! ママ、旅券持った?」


ママ

「スマホにあるから平気よ」


階段下から両親の声が聞こえる。


スイカ

「いまいくー! えーと、2泊3日って何持ってけばいいんだ? 行きの服と中日と帰りの日。あ、あと予備の服持ってくか。ゴーグルは…別に海泳ぐ気ないしいいか」

—タンスを閉める音


ママ

「スイカー! はーやくー! 行くわよー! 遅れちゃうー!」


スイカ

「今行くって!」


 勢い良く階段を駆け降りたので階段のいくつかにスカスカのキャリーケースがぶつかる。

 ママに小言を言われるながら家族全員が車に乗り込む。


パパ

「よし! シートベルトちゃんとしろー」


スイカ

「ねね、何時間くらいかかる?」


パパ

「空港までは大体1時間くらいかなー」


スイカ

「あー、じゃちょっとまって」


 若いスイカにとって1時間はちょーー長い時間。

 隙あらばお菓子を食べたい。

 最近、彼はじゃがりこにハマっていた。


ママ

「もういいわよ! 向こうで買えばいいから我慢しなさい!」


スイカ

「…へーい」


—車のエンジン音


 車は制限速度ギリギリで首都高を走っていく。

 トランクのスーツケースが時折ガタガタぶつかる音が聞こえる。




【2時間後】

—空港アナウンス

「JAR 航空より、ご搭乗のお客様方にご案内いたします。

只今から、JAR航空110便、那覇行きの搭乗手続きを承ります。

お客様は出発カウンターBまで、お越しください。

本日もJAR航空をご利用頂きまして、誠にありがとうございます」


 空港にはせかせか歩くスーツの大人や可愛いく凛々しいCAのオネェさん、麦わら帽子を被った男の子を抱っこしたパパママなどなど、たくさんの人でごった返していた。

 さすがは夏休み初日。

 途中の首都高渋滞でちょっと遅れた海堂一家は急いでチェックインを済ませている。


パパ

「ほら手荷物! 危険物持ってきてない?! 抜いとかないと没収されるぞ」


ママ

「あ、私、化粧水キャリーケースに入れてたけど大丈夫かしら」


 無事に保安検査場を通過すると大きな飛行機がガラスの向こうに見えた。

 ここまでくるといよいよ旅行に来たって感じだ! 

 最近勉強ばかりだったスイカもこの興奮には我慢ができない。


「おおお飛行機でけぇー!」


 キャラクターが描かれた飛行機がちょうど滑走路に降り立ったと思ったら、真っ黒な飛行機が飛び立っていく。

 そんな飛行機をスマホに納める。

 周りの少年たちと共にスイカはガラスに張り付いていた。


—空港のアナウンス

「JAR航空より最終のご案内を申し上げます。

JAR航空110便、那覇行きは、

只今8番搭乗口におきまして、最終のご案内中でございます。

当便ご利用のお客様は、8番搭乗口よりお急ぎご搭乗ください」


 飛行機に乗り込む海堂一家。

 もちろん、一番窓側はスイカが確保した。

 離陸の瞬間をこの携帯に収めてやろう、そう覚悟を決めて握っている。


パパ

「スイカ、それフライトモードにしときなさい」


スイカ

「へい」


—機内アナウンス

「皆様こんにちは。今日もJAR航空110便をご利用下さいましてありがとうございます。皆様のお手荷物は上の棚などしっかりと固定される場所にお入れ下さい」


 スイカは内心、久々の旅行にワクワクしている。

 ワクワクしていたので夕べは眠れなかった。

 なので飛行機が飛び立つ前にスイカは眠ってしまった。

—飛行機のエンジン音

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