第33話 舐めとったらアカンで?


 ハジメたちが〝落滝谷ダンジョン〟へ潜っている頃、


「あ~~~忙しわ~~~ホンマ忙しわ~~。忙し過ぎて死にそうやわ~~~」


 ZZZVズィーヴ事務所の社長室。

 デスクの高級椅子にぐで~っと腰掛けた虎嬢こじょうは、大量の業務に追われていた。


 仕事を片付けても片付けても、また新しい仕事に忙殺される。

 社長という職務は実に多忙なのだ。


「お疲れ様です社長、コーヒーをどうぞ」


 そんな彼女の下に、黒スーツの護衛兼秘書がコーヒーを淹れてくる。


「お~、気が利くやん。ありがとなぁ」


「……それにしても、本当によかったのですか」


「んん? なにがや?」


慈恩じおんハジメたちの護衛に、柳生やぎゅうつるぎしか付けなかったことです」


 黒スーツの護衛が言うと、カップを口元に運んでいた虎嬢こじょうの手が止まる。


「Dゲートの中となれば、どんな不慮の事故・・・・・が起こっても世間は怪しみません。不測の事態が起きる可能性は高いかと」


「……」


ZZZVズィーヴにはもっと実力のある者もいるではありませんか。今からでも向かわせた方がいいのでは――」


「わかっとらんなぁ」


「え?」


「わかっとらんて、つるぎのことが」


 改めてカップを唇に付け、クイっと一杯口に含む。

 そして喉の奥へ流し込むと、ニヤリと笑って見せた。


「アイツはエンタメ・・・・っちゅうモンが理解できとる。配信を盛り上げてくれるはずや」


「いや、そういうことではなく……」


「――頼りになんねやで? ああ見えても」


「……あまりそうは見えませんが……」


「ニャハハ! 本人が聞いたらorzするやろなぁ!」


 そんな笑い声を聞いて「今時orzって表現する人いるんだ……」と心の中でぼやく黒スーツの護衛。

 虎嬢こじょうは椅子に深く座り直すと、


「それにハジメくんのこともや。〝血染めの白鬼〟と呼ばれた斎門さいもんの愛弟子やで? あの子は。これがどれだけヤバいことか――」


 ――そんな風に話していた時だった。

 デスクの上に置かれた社内電話が鳴り響く。


 虎嬢こじょうが通話ボタンを押すと、


「なに、どうしたん?」


『お疲れ様です社長。東京博堂の営業の方がお見えになっております』


「ん? おかしなぁ……お相手先との打ち合わせ、1時間くらい後のはずなんやけど……」


『受付でお待ち頂きますか?』


「いや、ええよ。通ってもらい」


 非常識なやっちゃなー。

 ま、ええわ。

 これでちっとばかし商談有利に進めたろ。


 そんなことを虎嬢こじょうが考えている内に、社長室のドアがノックされる。


「は~い、どうぞ~」


 ガチャリ、と開けられるドア。

 するとスーツを着た2人の男性が入ってくる。


「「……」」


 どこからどう見ても、ごく普通の日本人サラリーマン。


 しかし――彼らは部屋に入ってくるや、アタッシュケースの中から短機関銃サブマシンガンを取り出した。


「っ!?」


「お、お前ら――ッ!」


 驚く虎嬢こじょう

 黒スーツの護衛も懐から拳銃を抜き取ろうとする。


 が、逃走も反撃も遅かった。


 ――2丁の短機関銃サブマシンガンが、銃口から弾丸をぶっ放す。


 ダラララララッ!という高速連射が虎嬢こじょうたちを襲い、社長室を滅茶苦茶に破壊。

 弾倉マガジンの弾を全て撃ち尽くすのにかかった時間は、僅か数秒。


 だが静寂が戻った頃には――虎嬢こじょうは椅子に座ったまま額から血を流し、黒スーツの護衛は血だまりの上に倒れていた。


「……死んだか?」


「確認する。……ああ、脳みそが吹っ飛んでるな」


 サラリーマン風の殺し屋2人は虎嬢こじょうの即死を確認。

 続けて部屋の中を物色し始めた。


「急げ、必要なモノだけ盗ってずらかるぞ」


「――――ま、待て……よくも……ッ!」


 血だまりの上で、黒スーツの護衛が僅かに動く。

 身体中に弾丸を受けて息も絶え絶えではあったが、即死は免れていたのだ。


「なんだ、まだ生きてたのか?」


「よくも、社長を……ッ!」


「チッ、さっさと死んどけよ」


 殺し屋の1人が、弾倉マガジンを交換して銃口を向ける。

 そして容赦なく引き金に力を加えようとした――その刹那、




「……なあ、ウチの社員になにしてくれるん?」




 いつの間にか、殺し屋2人の背後に虎嬢こじょうが立っていた。

 

 音も気配もなく、本当にいつの間にか。

 額から血を流したままの姿で。


「なっ――!?」


「舐めとったらアカンで? こんなんで殺せる思ったら、大間違いや」


 彼女は頭から流れ落ちる自分の血を、ペロリと舐めとる。


 直後、額に空いていた風穴が一瞬で修復。

 何事もなかったかのように完治してしまった。


「ウチの【仙女老殺ノンストップ・バブル】は、魔力がある限り細胞の変化を否定する。この豊臣とよとみ虎嬢こじょうを本気で殺したい思うなら、一瞬で肉体を消滅させるくらいはするんやね」


「ばっ、化物が!」


 2人が再び彼女へ向けて短機関銃サブマシンガンをぶっ放そうとする。

 だが、今度は向こうが遅かった。

 

「――住吉すみのえ流・水陣魔法【泡漏命あぶくろうめい】」


 虎嬢こじょうはバッと扇子を広げる。

 そこには、複雑な紋様の魔法陣が描かれていた。


 魔法の発動――。

 瞬間、殺し屋たちの全身が〝泡〟が吹き出る。


「う……っ! な、なんだ!? 泡が、身体中から泡がぁ!」


「その泡、アンタらの水分・・やで。どや? 人体の60%を占める成分が、泡として抜けていく感覚は?」


「がッ……かひッ……!」


「ヒュウー……ヒュウー……ッ!」


 殺し屋たちの身体は瞬く間に干からびてミイラ化。

 抵抗する暇もなく絶命し、床へと倒れた。


「さーて……大丈夫? 今助けたるで」


 虎嬢こじょうは続けて、瀕死の黒スーツの護衛へと歩み寄る。

 そして身体を触って魔力を送り込むと、撃たれた箇所が見る間に塞がっていった。


「こ、これは……」


「器用なモンやろ。【仙女老殺ノンストップ・バブル】は他人の細胞を直すのもお茶の子さいさいや」


「あ、ありがとうございます……社長……」


「ええてええて、これも福利厚生の一環ってな。それに死なれて遺族年金払うのも嫌やし、ニャハハ!」


「……面目次第もありません……。すぐに警察へ連絡して、こいつらの身元を――!」


「無駄やろ、どうせ金で釣った使い捨てやもん。本気でウチ仕留めよう思っとったら、魔力保持者送ってくるはず。こんなんご挨拶・・・や」


「ご、ご挨拶って……」


「それに見当もついとるし。こんな品性のない真似するの、あそこ・・・以外あらへんわ」


 黒スーツの護衛を治癒し終えた虎嬢こじょうは、社長室の巨大な窓から外を見る。

 そして不敵に笑い、


「でも……面白くなってきたやないの。こんな喧嘩の売られ方したの久しぶり。やっぱどこもハジメくんが欲しいんやねぇ」


「! そ、そうだ、慈恩じおんハジメたちが危ないのでは――っ!」


「平気やって、頼りになる奴・・・・・・がついてる言うたやろ。それより……ウチらも挨拶を返しに行こか」



==========



この第33話は絶対に書きたい話だったので楽しく書けましたが、思ったよりずっとヤ○ザ小説というかノワール小説になってしまいました……。

でも満足。


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転生の神童、配信者となる ~最強の赤ちゃんに転生したので、二度目の人生は無敵の少年配信者を始めます~ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

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