第32話 こんなのがゴロゴロいる


「お、おはいずも~! 皆見えてる~!?」


 ドローンのカメラに向かって呼び掛けるあずさ

 

 若干緊張しているらしく、顔が強張り気味。

 思えば〝土蜘蛛つちぐも〟の一件以来、これが最初の配信。


 しかも数十万人が観るかもしれないと考えれば当然か。


「今日も『いずハジ@チャンネル』に来てくれてありがと! それじゃ、今からダンジョン内で生配信やってくよ~!」 



==========


金子匠:おはいずも~!


モパさん:おはいずも~!


スイカばぁ:おはいずも~!


月曜の朝:おはいずも~!


緑のどん兵衛:待ってたぜ!!!


ジョン・トラボウィック:チャンネル登録者50万人おめえええええ!


とまとん:お、巫女服!


青猫:ハジメきゅんは!? ハジメきゅんを出せぇ!


==========



 ――今のコメントが流れる時間、およそ0.1秒。

 その後も決壊したダムから落流する水のように、怒涛の勢いでコメントが流れ続けていく。


 とてもじゃないが目で追えない。

 かろうじて見慣れた視聴者さんの名前を散見するのがやっとだ。

 

 それに同接数もヤバい。

 配信が始まったばっかりなのに、もう25万人とかいってる。


 チャンネル登録者数が50万人だったから、約半数がリアタイで観に来てることになるぞ……。

 注目され過ぎだろ……。

 怖っ……。


 あずさも絶対同じことを感じてるんだろうな。

 だが、彼女とて配信者の端くれ。

 精一杯の笑顔をカメラに向ける。


「え、えっとね、ご新規さんが凄く多くて戸惑ってるんだけど、とにかく皆来てくれてありがとう! 今日は巫女服で気合入れてきたし、ダンジョン攻略頑張るね! ぶい☆!」



==========


スライムジュース:は?


全粒粉うどん:は?


コンパスⅩ:相変わらず可愛くない


ロボ男2号:ぶい☆じゃねーよ


アンカー:早くハジメきゅん出して♡


キリン:巫女服かわいいけど似合ってない


偽物カボチャ:ここまでもはやお家芸www


==========



「ちょおおいッ! おまいら狙っとるんか!? 私の巫女服見て言うことがそれなの!? コメント欄の民度しっかりしろって! ちゃんと褒めてよ!」


 あ、コメ欄とあずさのプロレスが始まった。


 実際これはお家芸だよなぁ。

 もう新規の人までノリがわかってるのがちょっと面白い。


 でも――なんか安心するかも。


 人が増えても、こういうとこは変わらないんだなって。


「ふーんだ! いいですよいいですよ、それじゃご希望に答えて――ハジメくんの登場だ!」


「み、皆~、こんにちは~……」



==========


花丸:ハジメきゅんきたああああああああああ!


豆腐心:待ってた! ハジメきゅん可愛い!


ショタ命連盟総長:結婚してええええええええ!!!


ハジメきゅんガチ勢:可愛い! 可愛い! 可愛い!


==========



 一気に過熱するコメ欄。

 やっぱりあずさの時と温度差違い過ぎて怖いなぁ……。

 もう慣れたけどさ。


「それとね、なんと今日はゲストも来てくれてるの! それが――こちら、柳生やぎゅうつるぎさんでぇす!」


「はーい、こんちゃっす! 柳生やぎゅうつるぎだよ! 今日はコラボでお届けするから!」



==========


四倉駿:え? マジで柳生剱!?


金床の錆:スゲエ! まさかこんな組み合わせ観れるとは!


==========



 つるぎ先輩が出るやコメ欄が再び湧き上がる。

 SNSとかでは特に告知とかもしてなかったから、驚かれるのも無理はない。


 それにしても、流石は登録者数70万人の大人気DTuber。

 視聴者のほとんどが彼のことを知ってるようで、大盛り上がりだ。


「知ってる人もいると思うけど、この2人はZZZVズィーヴ所属のDTuberになったんだ! だから先輩として、今日はしっかり――」


 つるぎ先輩がカメラに向かって話していた――その時だった。


『キ……キキ……!』


 岩場の陰から、1匹の妖怪が飛び出してくる。

 1つ目と1本足の〝一本だたら〟という妖怪だ。


 体色は紫。

 決して強くはないようだが、背後からつるぎ先輩へ襲い掛かる。


「! 先輩、後ろ――ッ!」


「――リードしていこうと思うんだ! こんな感じで・・・・・・!」


 チャキンッ


 つるぎ先輩は腰の刀の鍔を、僅かに親指で押し上げる。


 次の瞬間――〝一本だたら〟は一刀両断された。


『キ……?』


 横一閃に身体を斬り裂かれた〝一本だたら〟は、叫び声すら上げずに死亡。

 2つに分けられた死体がズシャッと地面に落ちた。


「「っ!」」


 俺とあずさは一瞬なにが起きたのか理解できず、グッと息を呑む。


 ――見えなかった。

 太刀筋が。

 いや、刀を抜く瞬間すら。


「どう!? 皆見えた? 見えた? アハハ、見えなかったでしょー! 魅せプレイ成功ー!」


 すかさずおどけて見せるつるぎ先輩。

 それに反応して「は? なにしたの?」「相変わらずつっよ」等とさらに増えるコメント。


 今の発言からして、こんなのはよくやっているのだろう。

 目にも止まらぬ剣なんて朝飯前ってことか。


 これが……日本最大手DTuber事務所、ZZZVズィーヴの先輩。

 チャンネル登録者数70万人の実力。


 ……今更ながら、虎嬢こじょうさんが「実力なんてどーでもええねん」と言った理由がよくわかったよ。

 ZZZVズィーヴには――こんな人がゴロゴロいるって意味なんだな。


 つるぎ先輩はビシッと人差し指を突き上げ、


「よーし、それじゃ改めてしゅっぱーつ! 目指すはダンジョンの下層だよ!」


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