第31話 守銭奴のクソババアだけど――


VARIATIONバリエーションかぁ……。そこ、めっちゃ評判悪い事務所だね!」


 アハハ!と笑ってつるぎ先輩は言う。


 俺たちはダンジョンの中を歩きながら、さっきの出来事を話していた。

 

「ご存知なんですか?」


「勿論! これでも業界人だからさ、そういう話は自然と耳に入ってくるんだよ!」


 彼は俺たちを勧誘した会社のことを知っているらしい。

 それにどうやら、いい印象は持ってないっぽいな。


「噂だけど、かなり強引な手段でDTuberを引き入れてるんだってさ! 他の事務所とのいざこざも多いって聞いたことある! 関わらない方がいいね!」


虎嬢こじょうさんの悪口も言ってました。お金のために社員を使い潰すとか、ワザと妖怪に食わせたとか……」


「あ! それは半分本当!」


「へ?」


「社長はお金と社員ならお金を選ぶ人だし、タレントに餌を括り付けて妖怪に追い駆け回させたこともあるから! あの配信は大好評だったなぁ!」


「……」


 あれ?

 虎嬢こじょうさんって、やっぱり極悪人?

 これ松永の言ってたことが正しかったパターンか?


「でも安心してよ! 社長は守銭奴のクソババアだけど、俺たちを本当の子供みたいに思ってくれてる! とっても愛情深い人なんだ!」


「そう、なんですか……?」


「俺は社長のことが大好きだよ!」


 屈託のない笑顔でつるぎ先輩は言った。


「どうせいつか妖怪に殺されるなら、社長のために死ぬって俺は決めてるくらい! ハジメくんにも、いつかわかると思う!」


 ――あまりにもハッキリと言い切る。


 その言葉に一切の嘘偽りは感じられない。

 心から、虎嬢こじょうさんを尊敬しているんだと思う。


 そんな彼を見て、俺とあずさはようやく安心感を取り戻した。


「それよりもうすぐ配信始めるよ! 『いずハジ@チャンネル』で流すから、あずさちゃんはSNSでフォロワーに呼び掛けて!」


「あっ、は、はい!」


 慌ててスマホを操作し始めるあずさ


 こっちも気を入れ直して望まないとな――と意気込んだ時だった。

 俺のスマホに着信が入る。


「? 誰だろ……?」


 画面を見てみると――〝督姫とくひめマリア〟の表記が。


「もしもし、マリアさん?」


『あっ、も、もしもし……? ハジメくん……? い、今、大丈夫……?』


「うん、まだ収録が始まる前だから。それでどうしたの?」


『と、突然こんなこと言うのは、お、おかしいって、わかってるんだけど……! で、でも、視えちゃったから、聞いてほしい……!』


「……? 大丈夫だから、落ち着いて言ってみて」



『え、えっと、えっと……〝大きな鳥と遭ったら耳を塞いで〟……絶対に……!』



「え……? それどういう――」


「ハジメくーん! 配信始めるよ!」


「あっ、ごめん! 配信始まっちゃうから切るね!」


 慌てて通話を終了し、カメラの下へ駆け寄る俺。


 そして配信は、いつものあずさの挨拶で始まった。


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