最終回 花火と共に打ち上がって


 大狼くんと二人きりの空間が久しぶりなこともあって緊張しているのか、たこ焼きを8買えなかった。

 かなりいい雰囲気だし、あんまり大食いな所を見せたら……大狼くんに引かれちゃうもの。


 だからここは8パックで我慢しないといけないわね。


 大狼くんが両手に4パックずつたこ焼きのビニール袋を持って隣を歩いてくれる。


「この近くの河川敷からなら、打ち上げ花火が綺麗に見えるんだよ。昔はよく玉里と二人で来てさ」

「…………」


 今は私とデートしてるのに他の女の名前を出すとか、大狼くんはデリカシーないわね。


「佐伯はずっと海外にいたってことはさ、花火大会に来るのは初めてなのか?」

「ええ。花火大会は、初めてね」

「そっか……それなら次は美代も誘ってやらないとな?」


 だから他の女の名前……って。


「次は?」

「ああ。だって今日は……佐伯と二人で観たいし」

「……っ」


 私と、二人で……。

 大狼くんも同じ気持ちなのね。


「私も——っ」


「私も同じ気持ち」と口に出そうとしたら、花火が打ち上がる音にかき消された。


「もうこんな時間か。急がないとな」

「え……ええ」


 ずっと楽しみだった花火を今だけは恨んだ。


 大狼くんは首を振って河川敷の原っぱで空いてる場所を探し、私を案内してくれる。

 川に向かって少し斜度のある原っぱに二人で並んで座り、夜空を見上げた。


「ほら、たこ焼き」

「あ、ありがとう……」


 大狼くんから4パックのたこ焼きが入ったビニール袋を受け取る。

 ビニールの外からでも分かるくらいまだほかほかしていて、おたふくソースの匂いが香ばしい。


「食べても、いいかしら」

「むしろさっさと食べてくれ。8パックもあるんだぞ」

「じゃあ、いただくわね?」


 出会い方も、関係性もそうだけど、私たちは少し変わってる。


 既読スルーをして、彼に心配されたあの時、どうしようもなく嬉しくて。


 私は孤高の美女でもなければ完璧超人でもない。


 私の弱い所を一番知ってるのは、大狼古徳だけ。

 だから私は彼に……。


「大狼くん、あなたに一つ提案があるのだけど」

「ん?」


「私たち、付——」



「古徳くーん!!!!」「古徳ーっ」



 い、今……なんか嫌な声が2つくらい重なって聞こえたような……?


 そう思って振り向くと、そこには浴衣姿の女子三人衆が。


「げ、玉里に美代……それに、町張まで」


 道藤さんと美代が先行して河川敷の原っぱに座る私たちの方に来る。


「ちょっと二人とも! 邪魔しちゃダメだって言ったのに!」


 町張さんはこの野蛮な二人を止めてくれていたようだけど、どうやら持たなかったらしい。


「……やけに美代が朝からソワソワしていたから、何かありそうとは思ってはいたけど」

「姉さん、やっぱり古徳を独り占めするのズルい」

「してないわ。大狼くんが私を独占していただけ」

「おまっ! それは違うだろ!」

「あとたこ焼き8パック古徳から奢ってもらうのもズルい」

「美代……お前、見てたのかよ」

「たこ焼き屋の屋台の時に二人を見かけた」


 大狼くんと美代が睨み合いを始める。


「ってか玉里……お前は背中押してくれてたよな」

「え、なんのことー?」


 大狼くんが道藤さんにも疑いの目を向けている。

 背中を押した? 何のことかしら……。


「ねえねえ、こうなっちゃったことだし、みんなで花火観ようよ!」

「お前らがこうしたんだろ!」

「ごめんね大狼、佐伯さん」

「町張は悪くねぇ……と言いたい所だが、お前もこいつらと一緒って

「…………」

「なんとか言えって」


 町張さんは「あはは」と笑って誤魔化していた。

 邪魔されてはらわたが煮えくりかえっているものの……こうやって5人でいる時間も、悪くないと思える。


「姉さん、楽しそう」

「楽しいわよ。どっかの誰かさんたちに邪魔されなかったらもっと気分良かったけど」

「邪魔はする。だって私も……古徳好き」

「……我が妹ながら悪女ね」


 結局、夏休みの最後も私たちは5人で過ごすことに。


「……花火、綺麗だな、佐伯?」

「え、ええ……」


 私は花火よりも大狼くんの横顔をずっと観ていた。


(夏休み編 完結)

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既読スルーを繰り返すクール美女が俺にだけ返信をくれる理由。〜孤高の美女は孤独の俺を知りたがる〜 星野星野@3作品書籍化作業中! @seiyahoshino

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