我が名はタヌたん
みつなはるね
我が名はタヌたん
我の名はタヌたん。
我は
包み紙から出てきた我を見た幼き主は、それはそれは大喜びし、我に名を与えた。
物というのは、名を与えられると命が宿る。
我は”タヌたん”と名付けられた時に、この世にその存在を肯定され、ここに生まれた。
我の居場所は
冬の寒き日は身を寄せ合って眠り、夏の暑き日は足元で過ごした。
怖い映画を見る時も、主の耳目を塞ぎ護るのは我の役目。
主が喜べば共に喜び、主が泣けば寄り添い、話しを聞いて慰めた。
我らぬいぐるみは、そうやって己の主人に尽くして生きる。
我らと違い、人は育つ。
育つと共に、役目を終えた我らの多くは、主たちより一足先にこの世を去る。
主の妹たちに仕えていた
悲しいかな、いつかは我もその時が来る。
ところが、成人した主が生家を出る時、我もこれにてお役御免かと思っていたが、主は我と共に住まいを移した。
さらに時が経ち、主は生涯の伴侶と定めた男の許へ往く時も、我をつれて嫁いでいく。
ここでも我は夫婦の寝所に居場所を与えられ、そこで他の
ある日、我は自身の重大な真実を知った。
かねてから夫君は我に、「タヌたんは狸っぽくない。しかし、アライグマでもない。なんだろうか」と言っていた。
主はその度に「タヌたんはタヌキだからタヌたんなの」と反論していたのだが、近所の動物園に行った主が、部屋に駆け込み我を抱き上げてこう告げた。
「タヌたん大変だ。おまえはタヌキではなく、レッサーパンダだったよ」
それを聞いて我も驚いた。我も長らく自身が
そうか、我は
幾度も季節が巡り、命を与えられたあの日から、半世紀以上は経っただろうか。
存在はやがて、姿と形を変えて失われる。
人も物も永遠はない。
主の姿も随分と変わり、我の
それでも主は我を、
穏やかに時が過ぎ、今、主の生が終わるその瞬間も、我は傍らに寄り添う。
”タヌたん”と名付けられたあの日から、我の命は主と共にある。
生涯のぬいぐるみとして主に仕え、永らく世に留まり、我は誠に幸せであった。なにより主と共に逝けるなど、ぬいぐるみ冥利に尽きるというもの。
嗚呼、我の生涯これほどの慶福であったとは。誠に目出度く、天晴である。
主よ、最期の瞬間もその先も、我は主と共にいようぞ。故になんの心配も不要。さぁ、刻が来た。黄泉路へ参ろうか。
おわり
我が名はタヌたん みつなはるね @sadaakira
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