あなたはだんだん大人になる
福岡辰弥
あなたはだんだん大人になる
わたしだけのぬいぐるみをもらったとき、すっごくおとななきぶんだった。ぬいぐるみがいればひとりでねむれたし、おせわもしてあげて、おねえさんになったきぶんだった。
ぬいぐるみがいなくてもひとりでねむれるようにになった時、やっぱり大人になった気分だった。もう、子どもじゃなくなったんだ、本当にお姉さんになったんだ、と思えた。へやにあるぬいぐるみに、いつも見ていてね、なんてお願いをした。
ぬいぐるみのことを忘れて生きている自分に気付いた時、大人になったことを自覚した。もう昔のように抱き締めることもなければ、連れ回すこともない。だと言うのに、学校が変わっても家が変わっても、捨てられない宝物だった。もう目の届かない場所にしまってあるのに、ふとした瞬間に、その存在を思い出していた。
恋人からぬいぐるみをプレゼントされた時は、もう大人なのにな……と思ったけれど、何だか嬉しかった。同時に、すっかり見かけなくなったあの子を、どこにしまったっけな、と考えた。捨ててはいないはずだ。恋人みたいに並べて飾ってあげようかな、と考える私の中には、まだ少女がいた。
彼と一緒に暮らすことになり、家具や荷物の取捨選択をしている時、ぬいぐるみはもう処分しようかと考えた。私は、もうすっかり大人だった。あまり余計な装飾をしない性格だったし、新居の雰囲気には似合わない気がした。だけど結局、ぬいぐるみは捨てられず、新居のクローゼットの奥にしまった。大人になりきれないな、と思ったけれど、そんな自分のことは好きだった。
娘がどこからか、懐かしいぬいぐるみを探し出して来た時、私はもう少女ではなかった。娘はそのぬいぐるみを気に入っていたから、娘にあげることにした。娘は喜んで、「わたし、おねえちゃんになったみたい」と言った。
どうかこの子を導いてあげてね、と、くたくたになったぬいぐるみにお願いした。
あなたはだんだん大人になる 福岡辰弥 @oieueo
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