第5話 捨てられない宝物
「あんた……ちょっとは自分の部屋を、きれいにしなさいよ」
「はー?」
休日に寛いでいると、母ちゃんがオレの部屋に入ってきた。押しかけるなり、やはり文句。
「いや『はー?』じゃないわよっ! こんなガチャガチャした汚い部屋で、よく漫画を読めるわね! よく横になって、お菓子を食べられるわねぇ!」
「うっせーな。オレは母ちゃんと違って、こーゆーのが落ち着くんだよ」
「あらそう……でもね、母ちゃんは全く落ち着かないのよ。あんたが掃除しないなら、今から母ちゃんがやるわね」
「わ、分かったよ……」
「うん、それで良し!」
オレが渋々言葉を返すと、あんなに興奮気味で今にも鬼と化しそうだった母ちゃんは、コロッと笑顔になった。そして息子を信じているのか、さっさとオレの部屋から出ていった。
「……やれやれ。おっかねーよマジで」
母ちゃんも怖いが、それ以上に自分の部屋を誰かに荒らされる(母ちゃんは掃除と片付けをするつもりではあったが)のが怖い。
「断捨離すれば、運気も上がるのよーっ!」
うわ、まだいたのかよ母ちゃん!
自室のドアに母ちゃんの声がぶつけられたオレは、
「はいはい、分かったよ! 分かったから、もうどっか行けよ!」
負けずに自分の声と思いを母ちゃんに(ドア越しではあるが)ぶつけた。すると反応なし。無視だろうか。だとしたら、つい母ちゃんに構ってしまった自分が何だか恥ずかしい。
「ケッ!」
不機嫌になりながらも、オレは律儀に部屋の片付けや掃除を始めた。そして、その結果……。
「まあっ……あんたも、やればできるんじゃないのよ~!」
「だろ? ナメんな」
母ちゃんが(何だか上から目線ではあるが)褒めるくらい、オレは自室をきれいにしたのであった。
「あんた、これからしばらく良いこと続きよ! 掃除や断捨離は運気が上が……あらっ?」
「……何?」
これで、一件落着……と思っていたら母ちゃんが何かに気付いたようだ。
「これ何? 捨てないの?」
「ああ……それ全部、取っておくやつ」
「……ふーん……」
「いや何だよ、その顔」
「ふふっ。別に~」
「……あっそ」
一定の場所に集められたものを見た母ちゃんはニヤニヤしていたが、オレに特に何も聞いてこなかった。ホッとするんだか、不気味なんだか……よく分からない。
「それで……お母さんの手玉に取られて部屋をきれいにした結果、運気が上がって自販機で当たりが出たってことか!」
「いや手玉って……そんな言い方やめろ」
翌朝、学校の近くにある自販機でジュースを買ったら見事に「もう1本」。オレは
「わー、これ炭酸じゃないし! しかも、あたしが好きなのじゃん!」
「当たり前だよ、そんなの。嫌いなのあげるわけねーだろ」
「えぇ~? 何ぃっ? お前、あたしのこと好きなのかぁ~?」
「そうだよ」
オレが素直に答えた途端、あれだけベラベラしていた口が閉ざされた。その様子に表情が崩されそうになったが、どうにか耐えた。血は争えないもんだなぁ、と感心してしまった。
「あっ、そうそう! 断捨離したけど、オレお前から貰ったものは全く捨ててないから! まあ母ちゃんに見られて何か怪しまれたけど、それでも取っておいたぜ!」
「……捨てちゃえよ、そんなもん……。どうせボロい雑誌とか全部くだらないんだからさ……」
「いや好きな奴から貰ったもん捨てられるわけねーだろ」
「……」
「っつーか捨てたら絶対に泣くだろ、お前」
「……もうっ!」
オレの隣にいる女子は、真っ赤な顔でペットボトルの蓋を開け始めた。それがかわいくてかわいくて、ついオレは彼女の頭を撫でた。オレの右手は払われることなく、彼女は大人しくジュースを飲んでいる。
やたらとオレに何かくれるクラスメート 卯野ましろ @unm46
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