連れてってや  ~ひとの気も知らないで special version~

原田楓香

第1話

 久しぶりに、ミシンを使う。

大きな若草色の布のいくつかのパーツを、縫い合わせる。

柔らかくて、さらっと手触りはいいけど、ちょっと縫いにくい。

 それでも集中して縫っていると、どんどん形ができあがってきた。

鍵穴のような形のそれは、前方後円墳の形だ。

 想子さんは、歴史好きで古墳好きだ。古墳関係のイベントには、大喜びで出かけていく。そこで、見かけた古墳型のクッションがいたく気に入ったけど、結構なお値段で買えなかったと、残念がっていたので、僕が作ってあげる約束をしたのだ。

 せっかく作るなら、顔もつけて、可愛い古墳のキャラクターぬいぐるみにしてしまおう、というのが、僕の計画だ。


 想子さんは、僕の6歳上の姉で、今夏、イギリスに長期滞在の予定で旅立つ。 

大好きな彼女のために、僕は、想いを込めて縫っている。

 ほんとは、一針一針手縫いのほうが、想いがこもるのかもしれない。でも、受験生の僕には、あまり時間はない。そこは、サクッとミシンを使い、クッション用のビーズを詰め込む。 ふわふわと気持ちいい。

 もう1つ同じものを作る。1個目より、うまく縫えた。こっちを想子さんにあげよう。

 「想子さん、できたで~。 あと、これに顔つけて」

  2階に向かって呼びかける。 たちまち駆け下りてきた彼女が、

 「わ、すごい。ちゃんと古墳や! 顔はまかせて!」 

 彼女は、嬉しそうに、フェルトの布を、目や口の形に切り抜いて、工作用ボンドで、後円部分に、貼り付ける。

 僕は、取れないように、 それをチクチク縫い付ける。

 完成した古墳のぬいぐるみは、2人とも、とても可愛らしい笑顔だ。

 「はい。こっちは、ダイが持っててね」

 想子さんは、自分に似た子を僕に渡し、自分は、くっきり眉の僕に似た子を嬉しそうに抱きしめる。僕の胸はキュンとなる。

 そして、ひとの気も知らないで、想子さんは笑って言った。

 「イギリス、この子と一緒に行くよ」

 彼女の腕の中のその子を見ながら、心の中で僕はつぶやく。

 (……本物、連れてってや)

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連れてってや  ~ひとの気も知らないで special version~ 原田楓香 @harada_f

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