【短編】ペンギン、空を跳ぶ。

保紫 奏杜

ペンギン、空を跳ぶ。

 ふと、目が覚めた。

 掛布団から左腕を出して時計を確認すると、まだ四時だ。二度寝決定と寝返りを打つ。そこで僕の目に入ったのは、頭のすぐ横に落ちているペンギンだった。正確にいえば、年季が入ってくたくたになったペンギンのぬいぐるみだ。その向こうには、未だ眠っている妻がいる。いつも抱いて寝ている筈だが、おそらくは忘れて眠ってしまったのだろう。僕はぬいぐるみを掴むと慎重に妻の布団を捲り上げ、それをそっと押し込んだ。


 我が家には、妻が集めたぬいぐるみが幾つかある。実はそのぬいぐるみ達には派閥があるのだ。


 一つはリビング。棚の上を陣どっているラマ(リビングのぬし)を除けば、主な生息地はソファの端だ。明日も着るからと言って丸められた服を被っている彼らを、よく見かける。そんな場所ではあるが、妻に「むぎゅっとなって可愛い!」と愛でられる機会は多い。リビングは生活の中心だからだ。


 もう一つはこの寝室。布団の中を生息地としており、妻が寝る時にはその両脇を固めている。それぞれ生まれた場所や我が家にやってきた時期は違うものの、彼らは四匹で『ぐるみーず』を結成している。いや、結成させられている。リビング組に対抗しているのよ、と妻は言うが、そもそもぬいぐるみに対抗意識など存在するのだろうか? 


 僕は眠気が覚めない頭で、ちょっとだけ想像してみる。ペンギンに、熊だかアザラシだか分からない『くまフあざらし(妻命名)』、某漫画の猫先生と、某魔法学園からやってきた梟のタッグ。おお、空も地も水の中も戦えるじゃないか? 対してリビング組は、ラマと猫と熊と更に猫だ。ああ、そういえば最近、兎も仲間に加わったんだったか。それならきっと面白い戦いになるかもしれない。きっと人間たちが眠っている間に、熾烈な戦いが繰り広げられているのだ――。


 その時、視界に、ペンギンが跳んだ。

 妻の投げ出された腕によって。



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