ペンギンのすみか

初音

ペンギンのすみか

 私が働いているリサイクルショップには、ゆうに1mを越える大きなペンギンのぬいぐるみがある。店の目立つところにどーんと鎮座していて、私は密かに「ペン太」と名付けている。お客さんもそれぞれ「ペンちゃん」とか「ぺんぺん」とか好き勝手名前を付けて、ペン太を撫でていく。


 1年ほど前、私がここでバイトを始めた頃はお腹のところが白くて毛並みもよかったが、皆がこうして触っていくので今は若干黄ばんでくたびれた印象だ。


 ペン太は立派な売り物だ。状態が悪くなっていくことは本来よろしくないことだが、店長によれば、招き猫のような役割を果たしているからこれでいいのだという。

 かさばるし、中古品とはいえ大きさに比例してお値段もそれなりであるペン太。今後も買う人は現れないだろう。私がいつか広い部屋に引っ越したら、連れ帰るのもいいかもね。


「おはよう、ペン太」


 今日も私はペン太にハタキをかけ、ぬいぐるみ用の除菌消臭スプレーをかける。大事な商品兼招き猫、ならぬ招きペンギンであるから、お手入れは欠かさない。


 何も言わないペン太。でもつぶらな瞳で私を見ていてくれる気がした。


「あの、このペンギンは売り物ですか?」


 声をかけてきたのは、30代くらいの女性だった。


「はい、そうですけど」

「よかった。じゃあ、お願いします」

「へ?」


 何をお願いされたのか一瞬わからず、私は間抜けな声を出してしまった。そして3秒後に、この人はペン太を買いにきたのだと気づいた。私は慌てて女性をレジに案内した。

 支払いと配送の手続きを済ませ、女性は帰っていった。私は茫然とその背中を見つめることしかできなかった。


 それからペン太のいない店には常連客の残念がる声が溢れた。残念だと思うのなら買えばよかったのだ、早めに。けれど私も彼らもそうしなかったのだから仕方ない。

 私にできるのは、新しい家での、ペン太の幸せを祈ることだけである。








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ペンギンのすみか 初音 @hatsune

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