手芸部の不器用な幽霊部員が『チンなんとか』のぬいぐるみを作って文化祭で展示したら伝説になった

みすたぁ・ゆー

手芸部の不器用な幽霊部員が『チンなんとか』のぬいぐるみを作って文化祭で展示したら伝説になった

 

 マズイことになった。


 成果物の提出期限は明日だというのに、まだ何もやっていない。それもそのはず、数分前に友人の山手やまて安芸あきからスマホで連絡を受けるまで、そのことを完全に忘れていたのだから。


 私は自分の通う高校の手芸部に名前だけ貸している幽霊部員で、手先が不器用ということもあって部の活動を全くしていない。部員不足で廃部の危機という状況を回避するため、安芸から頼まれて入部しただけなのだからそれも当然だ。実質的に帰宅部と言っていい。


 でも今年の文化祭から文化系の部は活動成果の展示が義務づけられ、私も何らかの成果物を提出して展示をしなければならなくなった。


 当然、それを知った時に私は安芸に不満を伝えた。名前を貸すだけという条件で入部したんだから、安芸が作ったものを私が作ったものとして展示してよ、と――。


「それだと作り方のクセで、生徒会の監査委員にバレちゃうんだよね。だからどんなに下手でもいいから、ちょっとした小物でもいいから端里はたりが作ったものを何か出して。お願いっ☆」


 安芸は深々と頭を下げて頼み込んでくるので、私は仕方なく同意した。



 決して『ちゃんと出してくれるなら学食で日替わりA定食を奢るし、飲み物も付けちゃう。ジュースでもお茶でもカレーでも、なんでもいいよ』という甘い言葉に釣られたわけじゃない。そんなことあるわけない。断じてない。



 いずれにしても、すでにその対価を受け取ってしまっている以上、このまま知らんぷりは出来ない。なんとしてでも何かを作って提出しなければ……。


 ただ、明日の登校時刻まで残り11時間9分2秒。しかも私は手先が不器用ということで、完成させられる自信がない。そもそも何を作ればいいのかのアイデアすらない。困ったものだ……。


「とりあえず、手芸の真似事でもして雰囲気だけはを出してみるか」


 ――というわけで、私は形から入ってみることにした。それで何か事態が解決するのかといえば『それはない!』と断言できるけど、自分の気持ちを誤魔化して現実逃避をすることは可能だ。



 つらい現実から目を背けることは恥ずかしいことじゃない。精神の安定のためには必要悪なのだ。



 そこでまず私は自室の柱に打ち付けてあるワラ人形から五寸釘を引き抜き、そのワラ人形を握りしめた。そしていつだったかキッチンから拝借してきた『たこ焼きピック』で胴体の部分を何度も何度も何度も何度も刺していく。


 かつて安芸の家へ遊びに行った時、彼女はフェルトのぬいぐるみを千枚通しのような道具でチクチク刺していた。それを思い出して、こうして実行してみようと思ったわけだ。


 彼女が何の目的でそんなことをしていたのか、今もって私には分からない。でも今回は形だけ真似てみようということなので問題はない。



 チクチクチクチク……チクチクチクチク……。



「ぎゃああああああああぁーっ!」


 その時、リビングの方から断末魔の叫びのような父の声が聞こえてきた。夜だというのに騒がしい。近所迷惑というものを考えてほしいのだが……。


 まったく、急に叫んだりして父はどうしたというのだろう?


 まぁ、おそらく夜間開催の地方競馬の放送を見ていて、今月の小遣いを全て賭けた馬がゲートから出走した直後に騎手を振り落として競争中止にでもなったんだと思う。その場合、当然ながら賭けたおカネは返還されない。


 最近、父は『胸の辺りがなぜかずっと痛い』と不調を訴えていたのだが、きっとその原因は自分がギャンブルにのめり込んでいることへの罪悪感によるものだと私は確信している。だからこれを機にギャンブルから足を洗ってくれたら別居中の母も安心するだろうし、父も体調不良がなくなって一石二鳥なのだが、世の中はそう都合良くいかないか……。




 その後、私は耳栓をして黙々と作業を続けた。おかげで父の声や周囲の雑音に邪魔されることなく、集中してそれをやることが出来た。


 ――結果、私は2時間を浪費した。ますます追い詰められてしまった。でも後悔はしていない。


 なぜなら収穫があったから。何を作って提出するかのアイデアが浮かんだのだ。


「そうだ、ぬいぐるみを作ろう」


 安芸のやっていた作業の意味は分からないけど、ぬいぐるみを作っていたのは間違いない。


 そこから私は『作り方はどうであれ、私もぬいぐるみを作ればいんじゃね?』とひらめいたわけだ。


 早速、五寸釘でワラ人形を柱に打ち付け直し、元の状態へ戻した。それからあらためてぬいぐるみ作りに取りかかる。


「……って、どうやって作ればいいんだ?」


 私はぬいぐるみを作ったことがない。ただ、布を切って縫い合わせて、中に綿を詰めればいいのは分かる。幼いころ、父が買ってくれたネコのぬいぐるみをナイフで解体したことがあるから。


 子どもは好奇心の塊ということで、当時の私もその例に漏れず、中まで本物のネコと同じなのだろうかということが気になってそういうことをしたのだ。


 でもぬいぐるみを解体してから『そもそも私は本物のネコの解剖なんてしたことがなかった』と気付き、頭を抱えることとなる。


 もちろん、当時から手先が不器用だったから元に戻すことなんて出来ず、ぬいぐるみはバラバラのまま庭で焼却。ほろ苦くも楽しい思い出だ。


「作り方はあとで考えるとして、とりあえず材料を揃えてみるか……」


 なにはともあれ材料がなければ始まらない。必要なのは布と綿、それに糸。まずは布だが、どんなに考えてみてもぬいぐるみに使えそうなものが思い当たらない。


 服やハンカチ、タオルなどは傷んだら燃えるゴミとして捨ててしまうし、ぬいぐるみのために服などを切って布を捻出するわけにもいかない。私は思わず頭を抱える。


 やはりこういう時はホットミルクでも飲んで心を落ち着かせ、じっくり考えるのがベストだろう。そこで私はリビングダイニングキッチンへ向かうことにした。





「――あれ? お父さん?」


 リビングのソファーでは、なぜか父の息辺いきあたりふいがグッタリとしていた。年齢は58歳。頭髪は薄く、身長は低くて小太り。勤め先から帰宅したあとということで、白のTシャツにらくだ色のモモヒキ、グレーの靴下という格好でいる。


 よく見るとそのモモヒキの股間の部分は何かで濡れてシミになっている。


 ちなみに突然死が起きた場合、あるいはそれと同等の肉体的なショックを受けた場合などにも失禁をすることがあると聞いたことがある。


 ただ、弱々しいながらも呼吸をしているので、父に関しては生きていると思う。つまり単にトイレに間に合わなかっただけ。救急や警察を呼ぶことにならなくてなによりだ。


「そんなことよりホットミルク、ホットミルク~♪」


 私は冷蔵庫から牛乳のパックを取り出し、マグカップに注いで電子レンジで温めた。それを持ち、ソファーのところへ行って父の隣に座る。そしてホットミルクを一口。


 舌の上に広がる甘みと温かさ。鼻の中を優しい香りが通り抜け、体の中にミルクがじんわりと染みこんでいく。心も癒される。


 あまりの美味しさに、私は牛乳のパックが空になるまで何杯もホットミルクをお代わりしてしまった。


 ――結果、またしても2時間を浪費。今回はさすがに少しだけ後悔をしている。ホットミルクを飲み過ぎたせいでお腹がタプンタプンになったし、深夜だというのにカロリーを取りすぎてしまったから。もしかしたら眠気まで出てきてしまうかもしれない。


 ただ、今回も収穫があったので、その点は救いだった。というのも、ホットミルクを飲んでいる時に隣でグッタリしている父をなんとなく見ていて良いアイデアが思いついたのだ。



 ――縫えないなら縫わなければいい。



 まさに発想の転換。あらかじめ縫ってあるものを使ってぬいぐるみを作ればいい。


 着目したのは父が履いているグレーの靴下だ。朝、勤め先へ出かける際から帰宅して現在に至るまで履きっぱなしなので、汗や皮脂、臭い、苦労などが染みついている。


 靴下はまさに布で出来た細長い袋。中に綿を詰めて端を塞げばぬいぐるみのようになる。


 しかも足の指先に当たる部分に黒色のペンでちょっと描き加えれば『』に見えてくる。


 和菓子でも山や草花、自然などに見立てたものがあるように、ぬいぐるみだってそれっぽく作って『これは●●です』と言えばそう見えるようになってくるはず。もしそう見えなかったとしても、それはその人の想像力が欠如しているというだけのことだ。気にする必要はない。


 わずかだけど、ようやく私は希望の光が見えたような感じがしてくる。


「……それにしても『』って、正式な名前はなんだったっけなぁ」


 こうしてぬいぐるみ完成へ一歩近付いたとはいえ、やはり依然として私はそれが気になっていた。このままでは眠れなくなりそうだ。




 …………。




 ……………………。




「……んごー! んがががががーっ! ふごぉおおおおおおおぉーっ!」




 …………。




 ……………………。




 ……ハッ!? 危ない危ない、思い出そうとしていて熟睡してしまうところだった。


 慌てて時計を見てみると、どうやら私は1時間ほど寝落ちしてしまっていたらしい。やはりホットミルクが原因か。


 でもタイムロスが1時間で済んだのは幸運だった。そのまま登校時刻まで目が覚めなかったら、朝なのに夜逃げをしなければならなくなるところだったのだから。


 安芸のように普段はニコニコとして善人ぶっているヤツほど、キレた時には何をしでかすか分からない。きっと闇金業者のような末恐ろしい取り立てをしに来るに違いない。


 鋭い牙をむき出しにして噛みついてくる、まさにウツボかアナゴか……。


「……ん? そうだ、名前を思い出した! アナゴだ、チンアナゴだ! 私が作ろうとしているのは『チンアナゴ』のぬいぐるみだ!」


 まさに人間万事、塞翁が馬。何がどう転ぶか分からない。居眠りをしてしまったことで名前を思い出すことが出来た。しかも眠気が吹き飛んで、頭がスッキリとしている。つまりこの1時間も無駄ではなかったということになる。


 重大な問題が解決した私は気持ちも晴れやかに、物置から防毒マスクと溶接用グローブを持ってきて身に付けた。これは雑菌やウイルスなどによる感染症や臭いへの対策だ。こうして万全の準備をして父の足から靴下を脱がす。そして洗濯乾燥機での洗浄や除菌、乾燥などの作業を経てようやく装備を解いての作業が可能となる。


 ――この作業で1時間が経過。ただ、これは制作時間のうちに入るので浪費ではない。


 一方、機械の作動音によってご近所さんにご迷惑をお掛けすることになってしまったのは申し訳なく思う。文化祭が終了したら、展示を終えたぬいぐるみをお詫びの品としてプレゼントとしたいと考えている。


 さて、次の作業は靴下に黒色のペンで色々と描き加えていくこと。まずは目や口を描き入れ、それから全体に斑点を付けていく。この程度の単純作業なら手先が不器用な私でも出来る。この作業には1時間を要した。


 ――残り時間は約3時間。急がねばならない。


 次は靴下の中に綿を詰める作業だ。だが、ここでまたしても問題が発生する。


 それは綿がないということ。もちろん、自宅で使用しているクッションや布団の中には入っているが、外側を切り裂いてまでそれを取り出して使うというわけにはいかない。私は悔しさで唇を噛む。


 ……でもよく考えてみれば、ぬいぐるみの中身は必ずしも綿でなければならないということではないのではないか。柔らかくて適度に弾力性があるものならいいのだ。


「そっか、その手があった!」


 私はポンと手を叩く。


 やはり常識にとらわれていてはいけない。常識を越えた先に新たな世界が広がっている。


 私は綿の代用品になるものがないか、周囲を見回してみた。するとすぐ近くに素晴らしい素材があることに気付く。


 それはソファーに付着している父の髪の毛。最近は特に苦労を重ねているのか、あるいは単に年をとったからなのか、塊となってゴッソリと抜け落ちている。


 早速、私はサイクロン式の掃除機でソファーから髪の毛を吸い込んでいった。ただ、いくら最近は父の抜け毛が多いからといって、絶対量は少ない。集まった髪の毛を靴下に詰めてみてもやはり全然足りない。


 仕方ないので私は洗面所に置いてある手動式のバリカンを持ってきて、父の髪の毛を刈っていく。もちろん、素人かつ不器用な私では凝ったヘアスタイルになんて刈れないので、見た目が変にならないように丸坊主にすることにする。


 こうして現時点で集められる父の髪の毛は全て回収。それでも残念なことに、靴下はまだスカスカのままとなっている。


「う……うぅ……こうなったら私も覚悟を決めるしかないか……」


 この手段だけは使いたくなかったが、背に腹は代えられない。私はハサミを手に取り、腰の辺りまで伸ばしていた自分の黒髪を肩の少し上までバッサリと切り落とした。おかげで靴下の中は髪の毛で満たされ、溢れんばかりの状態となる。父の髪の毛などなくても充分に足りるくらいだ。


 こんなことなら父の髪の毛なんて刈らず、最初から自分の髪の毛を使えば良かった。


 そのため、私は靴下の中から父の髪の毛を全て取り出し、父の頭の周りにバラ蒔いておいた。もしかしたら髪の毛の1本1本が意思を持ち、自ら毛根へ歩いて帰っていく可能性も微粒子レベルで存在しているかもしれないから。


 そうでなくとも、こうしておけば父が目覚めた時にいつもよりちょっと抜け毛が多いな程度に思うだけで特に気にしないはず。


 ――これらの作業で2時間が経過した。もう残り時間は少ない。


 最後の仕上げは靴下の端を塞ぐだけ。それにはガムテープで固定するのが手っ取り早いが、時間が経つと粘着力が落ちて中身が出てしまう危険性がある。


 そこで再び物置へ行き、木工用接着剤を持ってきて履き口の部分を接着。さらに念のため、大型のステープラーを使ってガチャガチャと何か所かを綴じる。あとは接着剤が固まれば、完全に密閉される。


「やった、なんとか間に合った……」


 こうして登校時刻まであとわずかというところでチンアナゴのぬいぐるみは完成した! 不器用な私が突貫工事で作ったにしては見事な出来映えだ。我ながら誇らしい。


「――と、感慨に浸っている場合じゃなかった! 急いで登校の準備をしないと遅刻しちゃう!」


 私は父の書斎へ駆けていき、勢いよく押入れを開けた。そこには何かのDVDが入っている黒いビニール袋がたくさん置いてある。その中からひとつを手に取り、中身をその辺に放り出してその袋だけをもらうことにする。


 たくさんあるのだから、1枚くらいもらっても大丈夫だろう。ちなみに急いでいるのでそのDVDがどんなものだったかは確認していない。まぁ、おそらくは何かの映画かドラマといったところだと思う。


 その袋にぬいぐるみを入れるとそれをスクールバッグの中に仕舞い、必要な荷物をまとめたり身だしなみを整えたりすると私は自宅を出発したのだった。





 放課後になり、私は数か月ぶりに手芸部の部室へとやってきた。そこでは安芸が待っていて、私の姿を見るなり両手を前へ差し出してくる。


 安芸は活動的なショートの髪をしていて、身長は私と同じ160センチメートルくらい。体格は痩せすぎず太りすぎず平均的。大きな目と笑顔が眩しい17歳だ。去年はクラスが同じだったが、今年は別になってしまっている。


「端里っ、文化祭で展示するものを持ってきてくれたよね? さぁ、早く出せ出せっ♪」


「がっつくヤツは男でも女でも嫌われるぞ。落ち着け」


 私はクールに言い放って安芸の頭へ軽くチョップを入れた。まったく、ツッコミ役も楽じゃない。私もボケに回りたいものだ。


 安芸は苦笑いをしながら指で頭を掻いている。


「はいはいっ、分かってるって――っていうか、端里! いつ髪を切ったのっ!? しかもバッサリと!」


「ふむ、最初にそのことに言及するのが普通だろ。この天然ボケ娘め。まー、これにはのっぴきならない事情があってな。詳細は秘密だ」


「その髪型も似合うねっ。端里、可愛いっ♪」


「バ、バカ……照れるからそういうこと言うのやめろ……」


「で、何を作ってきたの? 手編みのセーターとか手袋とか」


「不器用な私にそんなものが作れるか。ぬいぐるみだよ」


「ぬいぐるみっ!? それだって充分に手が込んでるよ。早く見せて」


 瞳をキラキラさせ、期待に満ちた目で私を見ている安芸。私はやれやれと小さくため息をつきつつ、スクールバッグの中からぬいぐるみの入った黒い袋を取り出してそのまま彼女へ手渡す。


 するとそれを見た瞬間、彼女はなぜか目を丸くする。まだ中身を確認していないのに、なんなんだその反応は?


「どうした、安芸?」


「あ……いや……この袋ってまさか……」


「何か問題でも? 父親の書斎にいっぱいあったから、それを拝借してきたんだよ」


「っ!? あ、あぁ、そ、そういうことねっ! なるほどなるほど、そうだよね! ちょっとビックリした。じゃ、じゃあ、ぬいぐるみを見せてもらうよ」


 安芸は気を取り直し、袋の中に手を入れて私の力作であるチンアナゴのぬいぐるみを取り出す。そして『彼』と目が合うと、時間が止まったかのように表情も動きも固まって数秒の沈黙が流れる。


 ……いやいや、固まってないで早く反応しなよ。スゲェとか良く出来てるとか褒めてほしい。




「なッんじゃこりゃあぁああああああああああああああああああぁーっ!?」




 驚愕と当惑と恐怖が混じり合ったような、大音量の安芸の叫び声。そのせいで私は耳の奥がキーンと痛くなってしまったし、おそらく学校中に響き渡ったのではないだろうか。


 安芸は顔面蒼白になり、プルプルと全身が震えている。しかも手から力が抜けているのか、せっかくの私の力作を床に落としてしまっている。


 仕方ないので私はそれを拾い上げ、無理矢理に安芸へ握らせる。


「落とすなよ。もうこの際だから言ってしまうが、中には私の切った髪が入っている。ベースは父の靴下だが、きちんと洗濯してあるから安心しろ。履き口は木工用接着剤と大型ステープラーで密閉してある」


「なっ!? ななななななななななななーっ!!」


「ちなみに安芸、これはチンアナゴのぬいぐるみだ。誰が何と言おうとチンアナゴだ。異論は認める。……おい、黙ってないでなんとか言え」


「あ……あわわ……ぁ……」


「『なんとか』とか『認めるのかよ!?』とか、はよツッコミを入れろ」


「…………」


「まったく、無言のままなんてつまらんヤツだ。まぁ、いい。とにかく約束は果たしたからな。それをきちんと展示するのだぞ。ではさらばだ」


 口から泡を吹いて半ば白目をむき、失神寸前状態のまま立ち尽くしている安芸をその場に残して私は手芸部の部室をあとにした。


 それから数日後、文化祭の当日となって私のぬいぐるみが展示されたのだった。




 ――そしてその作品は我が校に代々語り継がれる伝説となった。理由は誰も私に語ろうとしない。


 なぜだ?



(おしまいっ!)

 




【2024年3月】


 続編を書きました。よろしければご覧ください。


『段ボール箱に白い粉やタイマー機能の付いた機械、かえんびんなどを詰めて警察に送ったら大騒ぎになった』

 https://kakuyomu.jp/works/16818093073452783627

 

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