Ⅱ
「うっ」
次の朝、ぼくは誰かにお腹を蹴られて目を覚ました。
ぼくはすぐに目を覚ますと部屋を見回した。
誰もいない。
でもベットには、あのクレーンを握った熊のぬいぐるみが座っていた。
「・・・」
「・・・」
時計を見ると、まだ5分前だった。
「いいや早めに行こう」
ぼくは着替えると、部屋の外に出た。
どうしよう天然ちゃんと一緒に行くべきか?
と思いながらも、天然ちゃんの部屋の前に来てしまった。
そしてノックをしてみたが返事がない。
まあいいか。と後にしようとした時、誰かがドアのノブを動かした。
多分、熊だ。
そしてドアが開いた。
部屋の中にはまだ人の気配がした。
そして寝息の音も。確実に熟睡している寝息だ。
どうしよう。
考えている間に時間は流れていく。
ギリギリまでぼくは待った。
「仕方ないよね」
部屋に入ると、天然ちゃんがベットで熟睡していた。
Tシャツと短パン姿の天然ちゃん。
おへそが見えてドキドキした。
家から持って来たと思われる可愛い目覚まし時計に手が置かれ、多分、目覚ましを止めてまた眠ってしまったのだろう。
「天然さん、起きて、天然さん」
「う~ん」
「天然さん、起きて、天然さん」
「う~ん」
このままだと、ぼくも遅刻だ。
放置するか?
誰も責めはしないだろう。
はあ。
ぼくは天然ちゃんに服を着せ抱え、チェックアウトをすませ、タクシーを拾った。
☆彡
「どーやってここに来たの?あれ、わたし記憶が無い」
大学の前で天然ちゃんは呟いた。
☆彡
やっと試験が始まった。
今は天然ちゃんの事は忘れて、試験に集中しよう。
としたのだが、右斜め前に天然ちゃんがいるので、気になってしょうがない。
ぼくが、異変を感じたのはその時だ。
問題に迷っている天然ちゃんに、天然ちゃんの熊のぬいぐるみが教えているのだ。
明らかに手がその動きだ。
あっ試験官に気づかれた。
が、試験官は「私、疲れてるのかな」って顔して通り過ぎて行った。
そう熊のぬいぐるみが試験を、教えるはずがないのだ。
常識的に考えて!
でも、ぼくはあの熊のぬいぐるみの異常性を知っている。
まあ試験官が良いのであれば、良いか。
☆彡
試験が終わり、ぼくらは駅前でお好み焼きを食べ、新幹線に乗って帰った。
駅に着くと、天然ちゃんのお世話係の友達が待っていた。
天然ちゃんは、友達を見つけると駆け寄って、
「わたし、ちゃんと試験受けれたよ」
って報告した。
「良かった、良かった」
と友達は嬉しそうに、天然ちゃんの頭を撫でていた。
幼馴染に後で聞いた話だが、天然ちゃんもぼくと同じで、後がなかったらしい。
そして、この前の大学受験では、大学に辿り着けなかったらしい。マジか!
「あの親切なお兄さんに、色々助けてもらったんだよ」
と天然ちゃんはぼくを見ながら言った。
あれ?【親切なお兄さん】って、何だろう?
もしかして、ぼくが同じ受験生だと認識してなかったのか?
ニュアンス的に、たまたま通りかかった【親切なお兄さん】だよね。
こうして、ぼくと天然ちゃんの旅は終わった。
完
隣のクラスの天然ちゃんとの旅行記 五木史人 @ituki-siso
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