隣のクラスの天然ちゃんとの旅行記
五木史人
Ⅰ
ぼくは、遠く離れた街にある大学を受験する為に、新幹線に乗った。
もう後がない状況に、ぼくの心臓は高鳴っていた。
決めなければならない。必ず!
新幹線の席に着くと、深呼吸をして、席に座った。
これから、ぼくの戦いが始まるのだ。
新幹線の窓から外を見ると、駅の自販機で同じ学校の制服の女子が、ジュースを飲んでいた。「ぷはー」と聞こえそうなくらい幸せそうに。
新幹線ホームにいるって事は、受験生だろうな。
あれ?見た事がある!隣のクラスの天然ちゃんだ。
噂だが、その天然エピソードは伝説になるレベルだ。
いつもはお世話係ぽい頼もしい友達と一緒にいるのだが、今日は1人らしい。
まるで初めてのお使いだ。
えーと、確か・・・同じ大学を受ける女子がいるとか・・・
あれ?あれ?あれ?あっ天然ちゃんだ!
ぼくは時計を見た。新幹線もうすぐ出るじゃん!
「ぷはー」とまだしあわせそうにしてるけど、荷物を持ってないって事は!
ぼくは立ち上がり、自由席を見渡した。
高校の制服のコートが、掛かっているのが見えた。
席には誰も座ってないし、間違いない!
どうする?ほっとく?
隣のクラスだし面識もないし。
でも、ぼくの判断ミスだったらどうしよう。
と思考はしたものの、後味が悪い!
とぼくは新幹線を降りて、天然ちゃんの元に走った。
時間がない!
「天然さん急いで!」
ぼくは天然ちゃんの手を握り、新幹線に乗り込んだ。
天然ちゃんの手がとても柔らかかった。
「えっ?えっ?何するんですか?器械体操ですか?」
天然ちゃんは驚いた。が、すぐにドアが閉まると、
「はぁ間に合った」
と、ホッとした。
なぜ器械体操なのか?駅で器械体操をすると思ったのか?
謎な点は多々あったが、とりあえずぼくの判断は正解だったらしい。
「天然さんも○○大学受験でしょう?」
「なぜそれを!」
天然ちゃんは超極秘情報を知られたような顔をした。
そのくらいの情報は出回るでしょう。
ぼくは天然ちゃんが席に着くのを確認すると、自分の席に戻った。
☆彡
駅に着くと当然天然ちゃんも、降りて来た。
そして同じ方向に向かった。
どうしよう、天然ちゃんとの距離感を。
と考えて、ふと後ろを見ると天然ちゃんがいない。
ぼくは慌てて天然ちゃんを探した。
天然ちゃんはすぐに発見できた。
ぼくの白のパーカーに似た白のパーカーを着た男子高校生の後を、尾行していた。
あきらかに『こいつについて行けば目的地に辿り着くはず!』的な尾行だ。
でも、違う!そいつはぼくじゃない!
「天然さん」
ぼくは天然ちゃんの後ろから声を掛けた。
天然ちゃんは、驚き
「分身の術?!」
「違います」
☆彡
ぼくはホテルの場所を聞いた。
天然ちゃんは「ホテル」の言葉に顔を赤らめた。
「違います」
ホテルは同じホテルだった。
ホテルに向う途中、ぼくと天然ちゃんのお世話係の友達が、
「幼稚園から一緒で仲が良かったんだよ」
と話すと、天然ちゃんとぼくとの間に合った壁が一斉に解かれた。
「それを早く言ってよ、どうりで同じ匂いがすると思ったよ、もう」
同じ匂いとはなんだろう?
同じ匂いだから、この天然ちゃんと関わってしまう。
そんな事を考えた。
一気に砕けた雰囲気になった天然ちゃんは、
「あっ見て見て、ゆーふぉ―きゃっちゃーがある。一緒にしようぜぃ!」
「明日受験だよ」
「いいじゃん。地元を離れて新婚旅行してるみたいだし」
もう新婚旅行かよ!さっきまで若干警戒していたくせに。
☆彡
異変を感じたのは、そのゆーふぉ―きゃっちゃーをしている時だ。
クレーンが近づいてくると、ガラスの箱の中の熊のぬいぐるみが、自らクレーンに掴まったのだ。
「えっ」
驚くぼくに
「ゆーふぉ―きゃっちゃー、あるあるだよね~」
と天然ちゃん。
ぼくは、そんなゆーふぉ―きゃっちゃーあるある、知らない。
天然ちゃんのオーラに、感化された世界が異変を起こしてるのかも知れない。
2匹の熊のぬいぐるみが、クレーンに掴まって来たので、2匹の熊のぬいぐるみをゲットした。決してそう言ったゲームではないはずだ。
そして「記念に」と1匹の熊のぬいぐるみを渡された。自らクレーンに掴んできた熊のぬいぐるみを、ぼくはゲットした。
ぼくらはホテル近くのラーメン屋で、味噌ラーメンを食べて、それぞれの部屋に戻った。
つづく
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