ぬいぐるみの子
悠井すみれ
第1話
キティのね、中身が出ちゃってたの。キティって、猫よ。わたしより先にお家に来たから、わたしのことを妹だと思ってるの。キティのほうがわたしよりずっと小さいし、っていうか猫なのに、おばかさんよねえ。でも、かわいくてやわらかくてふわふわしてて好きなの。「おかあさん」のおひざに乗って、わたしのおひざにキティを乗っけると、あたたかくて気持ち良くてすぐに眠くなるの。
それで──その、キティよ。お家から飛び出してしまって、あちこち探して、やっと見つけたらそうなっていたの。白くてふわふわでかわいいのに、かわいくなくなっちゃって。
でも、キティだもの。好きだもの。直してあげなきゃ、って思って。「おかあさん」に針と糸を出してもらったの。わたし、お裁縫も習ったんだから。もちろん、まずはキティを洗ってあげたの。お洗濯した後のタオルとか、白くてふわふわでしょう? キティはなんだかべったりしていたのと、あと変な臭いがしたから、しっかり洗って乾燥させなきゃ、って。「おかあさん」だってたまにそうしてるもの。えっと、「おかあさん」がお洗濯するのは、毎日よ? 「おかあさん」
キティと、また遊びたかったの。がんばって直そうと思ったの。ていねいに、きれいに縫ったのよ? わたしが、下手だったから? でも、大きくなったらもっとじょうずにできると思うの。ずっとしまっておこうと思ったのに。どうしてキティを連れて行っちゃったの?
* * *
可愛らしい動物のぬいぐるみを被せた育児用アンドロイドは、肌触りも良く柔らかく温もりがあり、幼児の情操教育に良いとされてきた。しかし、近年になって副作用が問題になる事件が散見されている。人に育てられた動物が自らを人だと信じ込むように、ぬいぐるみに育てられた子供たちは、時に自身も周囲も綿の詰まった修理可能な人形だと考えてしまうのだ。
ぬいぐるみの子 悠井すみれ @Veilchen
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