ぬいぐるみの面接
ケーエス
ぬいぐるみ×面接
「それでは次の方どうぞー」
「はーい」
面接官は訝しげな表情を浮かべた。次の者はドアに入る前から返事をしている。そしてコンコンとドアを2回たたく音。なるほど、コイツはもう無理そうだな。履歴書を見るまでも無い。頭の中で紙を払う音がした。
「どうぞー」
ドアが開いた。面接官はそこに立っていたものを見て硬直してしまった。そこに立っていたのは人間では無い。紛れもなくぬいぐるみ、クマ(クマさんと言った方がいいお子ちゃま向けの可愛らしい感じ)のぬいぐるみなのであった。ぬいぐるみの仁王立ちを見て茫然としていた面接官は履歴書を見た。写真ももれなくぬいぐるみだ。青をバックに移ったぬいぐるみのバストアップは見てはいけないもの感があった。
「ちょっとどうなってるんだね」
「どうなってるんでしょう」
隣の年下の面接官くんもきょとんとしている。
「知らないのか? 書類審査をしただろう?」
「いやあ、わかんないですね」
わかんないって……。面接官の足が小刻みに震えた。
「あ、あの……」
当のクマさんまで目をきょろきょろさせている。君のせいだろうが。
「どうぞお座りください」
「はいぃ」
クマさんがパイプ椅子にちょこんと飛び乗った。ぬいぐるみの小さな足がパイプ椅子の前でぶらぶらしている光景は奇妙にも程があった。ずっと見てると呪われるのではないかと思われた。
「ええ、それでは」
面接官が咳払いをした。
「よろしくお願いします」
「よろしくですぅ」
「ええ、まず志望動機をお聞かせ願えますでしょうか?」
「あ、はい」
敬語が使えないのか。ぬいぐるみだから当然か。いやぬいぐるみが喋っていること自体当然ではないだろう。考えを巡らしてもぬいぐるみが面接を受けている理由が全く思いつかない。頭の回路がバチバチ言った。
クマさんはしばらくもじもじしていたがやがて面接官の顔を直視して口を開いた。顔の表情が変わったように見えた。 いや気のせいか。
「御社を志望した理由は3つあります」
ん? 3つ? 面接官の貧乏ゆすりが止まった。
「1つ目は御社の経営理念に共感したからです。御社の睡眠こそ自分への最大の投資という経営理念ですが、私はまさしくぬいぐるみであります。夜人間たちが寝静まった後、我々はやっと動きだすことができます。御社に入社した暁には完全定時退社の後、夜の時間に代わりに働かせていただくことができると思います」
面接官はあっけにとられた。今ぬいぐるみが喋った内容を教えてくれと言われても1割も伝えることはできないだろう。
面接官くんに目配せしても首を横に振るばかり。
「それはどういう――」
クマさんは変わらず続けた。
「2つ目は御社がセキュリティ対策のリーディングカンパニーであるからです。御社はセキュリティ対策においては日本一の企業であるということは紛れもない事実であります。30年前の創業以来、御社は常に業界を驚かせてきました。連日のように各メディアの注目を集めてきたのは御社ぐらいのものであると思っております。そんな御社の下で働けば、間違いなく自分を最大限スキルアップさせることができるに違いはありません!」
クマの目に熱意が見られた。ただの丸ボタンなのだが。それがかえって不気味さをより一層際立たせるのであった。しかも我が社がリーディングカンパニーだった覚えはない。ただメディアの注目を浴びているのは確かだが……。面接官の足が再び震え始めた。
「3つ目は社内の雰囲気が良かったからです。インターンの際に短期間ではありますが、社員の方々と直接接する機会がありました。みなさん個性が輝いていて互いを補っている。しかも警戒心が無い、実に穏やかな環境です。ここなら間違いなく確実に目的を達成させることができます」
「ちょっとちょっと君、さっきから何を言ってるんだね」
面接官はクマさんのボタンの目がますますらんらん怪しげな光を反射しだしているのに気づいた。ぬいぐるみに表情はないはずなのに。笑っているように見える。面接官くんと目を合わせる。彼は陸に上がった魚のように口をパクパクさせている。
「それでは失礼いたします」
クマさんが椅子をさっと飛び降りた。
「ちょっと君、まだ質問が、あ!」
「部長!」
次の瞬間、クマさんの姿が消え、面接官2人の口に異物がはめられた。さるぐつわだ!
「ふんぐふんっぐう!」
後ろ手にロープを縛られ床に叩きつけられる。その間、たった2秒。
見上げるとクマさんが拳銃を持って立っていた。
「申し忘れました私」
面接官2人は後ずさった。
「反乱軍の者です」
「ふぐううぐうぐぐ!」
2人のうめき声をよそにクマさんは去っていった。
これが後のぬいぐるみ独立戦争の発端、セキュリティー超脆弱カンパニー本社ぬいぐるみ占拠事件の一幕である。
ぬいぐるみの面接 ケーエス @ks_bazz
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