優しい彼氏はぬいぐるみに“しっと”する

彼氏は彼女のために整える

　真人（まさと）は優しい。プレゼントをよく買ってくれるし、逆に私が他の男友達から贈り物されても気にしないでいてくれる。

　ただ、お金にシビアな面もある。無駄遣いはしたくないっていう。ほら、保険とか。ああいうのにお金を出すのを嫌う。掛けておいて何も起きなかったら、無事を喜ぶよりお金を無駄にしたと感じるみたい。

　ま、そういう金銭感覚って悪くはないよね。稼ぎを遙かに超えて浪費するのに比べたら、ずっとまし。節約志向と言えるし。

　でもこの間、そんな真人が「舞（まい）の部屋に盗聴器が仕掛けられてないか、業者に調べてもらおう。費用は俺が持つ」と言ってくれたの。急に何故？と思って訳を聞くと、ニュースで盗聴盗撮被害の酷さを知って、心配になったって。私、ちょっぴり感激しちゃって、すぐやってもらった。

　でも盗聴器なんてある訳ない、それこそ真人の嫌う無駄遣いだって、心配だった。だから、業者さんの機械が反応したときは、かえってほっとした。

　結果的に盗聴器二つ、カメラレンズ一つが見付かった。それぞれ別のぬいぐるみに仕込まれてた。どれもくれたのは男友達のＡで、バッテリーが切れる度に追加してたんじゃないかって話だった。真人、凄く怒ったけど、ぬいぐるみをボコボコにしただけで、Ａ本人には暴力を振るわなかった。忠告して、二度としないと約束させたって。

　とにかく、これで安心して二人で過ごせる。真人も必要とあればお金を使うと分かったし、いいこと尽くめね。

　二週間後。

　片倉（かたくら）舞の刺殺体が彼女の部屋で見付かった。強盗の仕業と当初思われたが、傷口にあった繊維が発売間もないブランド物の新作セーターで、現場には見当たらなかったことから重要証拠と判断。購入者リストに被害者の恋人・滝（たき）真人の名があり、追及したところ、殺害を認めた。なお、犯行二週間前に滝は現場の盗聴器の有無を業者に調べさせており、計画的犯行であることが窺える。