ぬいぐるみと本屋
ハスノ アカツキ
ぬいぐるみと本屋
はじめてナナちゃんと会ったとき、ナナちゃんはわたしをぎゅっとしてくれた。
ナナちゃんはママに、わたしがほしいとおねだりした。
ママは、いいわよと言って、わたしをだきあげた。
わたしはびっくりした。
いつもたくさんのなかま といっしょだったから、1人になるのがこわかった。
おねえちゃん、おにいちゃん、くまよむ、かくくま、ほかにもいっぱいのなかまの名前をよんだ。
みんなもわたしの名前をよんだけど、そのままはなればなれになってしまった。
わたしはしくしく泣いた。
しくしく泣いているうちに、ナナちゃんのおうちについた。
ナナちゃんはおうちにつくと、おままごとということをしてくれた。
さいしょの何日か泣いていたけど、毎日ナナちゃんがハンバーグとかめだまやきとかおもちゃというものをわたしの口にくっつけてくれた。
それがどういうことか分からなかったけど、ナナちゃんはとっても笑っていた。
それがなんだかお母さんみたいで安心した。
ナナちゃんは毎日ハンバーグのおもちゃを口にくっつけてくれた。
ぎゅっとしてくれて、ママの読んでくれる本をいっしょに聞いた。
そのうち、ナナちゃんがわたしに本を読んでくれるようになった。
毎日ナナちゃんといっしょでうれしかった。
でも、ナナちゃんは小学生になった。
わたしにはナナちゃんが小学生になったと聞いても、前のナナちゃんとどこがちがうのか分からなかった。
でも、ちょっと前より大きくなった気がする。
大きくなると名前がかわるのか、とびっくりした。
それから、だんだんわたしとあそんでくれなくなってさみしい日がつづいた。
こんどは中学生になった。
また名前がかわってびっくりした。
やっぱり大きくなっていた。
そのころは、わたしは本とならんで中学生ちゃんを見つめるだけだった。
とうとう高校生になった。
大きくなっていなかった。
中学生ちゃんと高校生ちゃんのちがいが分からなくて、分からない自分にもやもやして、しくしく泣いた。
ナナちゃんだったころが急になつかしくなって、いっしょに読んだ本を思い出した。
またいっしょに本を読みたい。
むかし、おじいちゃんおばあちゃんに、ぬいぐるみは動いちゃだめと言われてずっと守ってきたけど、がまんできなかった。
高校生ちゃんは、おへやにいない時間が長くなっていたから、ぬけだすのはかんたんだった。
高校生ちゃんがナナちゃんだったころに、ママにつれていってもらったおみせに向かった。
人にみつからないように気をつけながら歩いて、おみせをみつけた。
いりぐちがしまっていたけど、まどが少しあいていた。
手をのばしてなんとか入ると、本がいっぱいのおへやだった。
絵がいっぱいある本で、中にはナナちゃんに読んでもらった本もあった。
どんな本があるのかいっぱい見たかったけど、人がちかづく音がして、あわててすわった。
だれかがわたしのすぐそばまできて、あれ、と言った。
その声にわたしもおどろいた。
高校生ちゃんだった。
高校生ちゃんは店長さんという人にわたしをもっていき、なにかはなした。
これ、おちてたんですけど、うちのぬいぐるみそっくり
え、もしかして、つれてきたの?
ちがいますよお、でもほんとそっくり
うちにかえったら、ぬいぐるみないかもよ
えー、こわいですよお
まあじょうだんはともかく、おとしものはうらであずかるよ
ねえ、てんちょう、もしほんとにいなかったら、もらっていいですか?
そんなににてるの? まあ、ほかんきげんがすぎればね
はあい、と高校生ちゃんは言うとわたしをぎゅっとしてとなりのおへやにつれていってくれた。
たなにすわらせてくれると、高校生ちゃんはまたどこかへ行こうとした。
どこかへ行こうとしたけど、なにか思ったのかわたしのまえに本をひらいてくれた。
これ読んで、まっててね
高校生ちゃんはわたしににこっとわらった。
ナナちゃんだったころのままだった。
うれしかった。
高校生ちゃんもやっぱりナナちゃんだと思った。
うれしかったし、ほっとした。
おうちにかえっても、もやもやしない気がした。
本を読んでまたびっくりした。
小学生、という人の話なのにナナちゃんの話じゃなかった。
それに小学生はたくさんいた。
ぬいぐるみのなかまを思い出した。
ナナちゃんは小学生ちゃんとか高校生ちゃんになったのではなくて高校生というなかまになったのだと思った。
よかった。
ナナちゃんのことをいっぱい知れてよかった。
これからはどんなに名前や大きさがかわってもかわらなくても、ナナちゃんのことをナナちゃんとたくさんよぼうと思った。
おうちにかえってナナちゃんとよぶのは、またべつのお話。
了
ぬいぐるみと本屋 ハスノ アカツキ @shefiroth7
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