ユニークな野良猫

沢田和早

ユニークな野良猫

 その野良猫がいつ頃からこの町を徘徊するようになったのか、自信をもって断言できる者は一人もいなかった。

 半年前と言う者がいれば、数年前と言う者もいる。転出した住人が捨てていったと言う者がいれば、以前から住み着いている野良猫が産み落とした子猫だと言う者もいる。

 それらのどれも根拠のないウワサ話にすぎなかった。ただひとつだけ確かなのは、その野良猫はまるで野良犬みたいに振る舞うということだった。


「チンチン」

 と命じればその野良猫はチンチンをする。

「お手」

 と言えば前足を差し出し、

「伏せ」

 と言えばその場に伏せる。


 それだけなら芸を仕込まれた猫に過ぎないと言えなくもないが、犬っぽく見えるのはそれだけではなかった。


「にゃわん、にゃわん」


 と、まるで犬と猫が混ざったような声で鳴いた。穴を掘ったり、投げた物をくわえて来たり、片足あげてオシッコしたりと仕草の全てが犬そのものだった。

 ただ人に危害を加えることは決してなかったので、住民からは「ちょっと変わった地域猫」として愛されていた。


「こちらが今話題の犬みたいな猫です」


 ある日ローカルテレビ局が取材にやってきた。

 野良猫は人に触れられるのを嫌がったので、これまで誰も抱っこをしたり頭や喉を撫でたりするようなスキンシップをしなかったのだが、テレビ局のアナウンサーは大胆にも野良猫を抱っこして背中を撫でるという暴挙を敢行した。


「あら、これは何かしら」


 背中を撫でる手に違和感があった。毛をかき分けてみるとファスナーが付いている。少し開けてみると中には別の背中が見える。


「えいっ」


 思い切ってファスナーを全開にすると割れた背中から犬が出現した。


「な、なんということでしょう。これは猫ではなく犬です。猫のぬいぐるみを着せられた犬だったのです」


 本物そっくりに作られた猫のぬいぐるみを脱いだ犬は、嬉しそうに跳ね回りながらどこかへ行ってしまった。

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