ぬいぐるみ殺人事件

国見 紀行

誰が着ていた?

 ある夜、仕事帰りの女性が殺され、死体の一部が現場に残されていた。

 人通りが少なく静かな場所での犯行だったが、たまたま自治体が設置した監視カメラのおかげで犯行の一部が撮影されていた。

「なんだこれ」

 しかし映っていた犯人は、某特撮プロダクションが使っている撮影用のぬいぐるみを着ていたのだ。


「このぬいぐるみはもう使ってないから倉庫にありますよ」

 事件の詳細は伏せたまま警察はぬいぐるみについて調査を開始した。

 数は一つしかなく、加えて最近見た人はいない。

「最近変わったことは?」

「あー、役者スーツアクターが一人ずっと無断欠勤してます。まだ撮影あるんですけどね」

 休みだしたのは事件の前日。

「これですね」

 社員立会で件のぬいぐるみを見せてもらう。

「ここ、返り血だ。間違いないだろう」

「え、返り血?」

 一定の確信ができたので、礼状を見せた後ぬいぐるみを押収した。

「よ、っと…… なんだ、えらく重いな」

「そりゃガワを固定するワイヤが張ってますからね。七十キロはありますよ」

「いや、もっと重く感じるな。人の二人ぶんはあるぞ」


 警察は早速鑑識で血痕を調査すると、二人分の血液を検出した。

「一つは被害者の女性のでした」

「もう一つは? もしかしたら男性のものか?」

 事件の担当刑事が『もしそうなら犯人は例のスーツアクターの男で間違いない』と決めにかかる。

「はい、性別は男性だとわかりましたが……」

 そこで鑑識官がどもる。

「その、女性の血痕に比べて凝固が弱くて」

「そっちのほうが新しい血痕だと?」

 ますますアタリだ。刑事はそう直感した。つい最近まで着ていたのだろう。つまり、犯行当時着ていたという証拠になる。

「しかも、内側からにじみ出てきた形跡がありました」

 その言葉で、背筋が凍る。

「中身は」

「開け方が分からず、かと言って破損させるわけにも」

「いいから開けろ!」

 さんざん弄った挙げ句チャック一つ見つけられなかったので仕方なく背面を縦に割いた。

 そこには、男性の遺体と女性の残りの遺体が収まっていた。しかも男性の遺体も一部破損、切除されていた。

 女性は頭だけ。

 男性は頭以外。

 事件は迷宮入りになった。

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ぬいぐるみ殺人事件 国見 紀行 @nori_kunimi

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