【闇憑き姉妹シリーズⅡ】ふたり隠れん坊

深川我無@「邪祓師の腹痛さん」書籍化!

ふたり隠れん坊

「何作ってるの?輪廻ちゃん。」


「ふふふ。ぬいぐるみだよ。車輪カルマちゃん。」


輪廻はひょいと襤褸ぼろ切れ継ぎ接ぎ、ボタンのお目々はほつれて落ちかけ、カビ色、藍色、紫色のぬいぐるみを掲げて見せた。


見ると真っ赤なステッチがニィとこちらに笑いかける。


「とっても可愛いくまちゃんね。」


「失礼しちゃう!ウサギなんだから!」


双子の姉妹は顔を見合わせケラケラと笑い転げた。


「それで?それで?それをいったいどうするの?」


車輪は妖しい笑みを浮かべて輪廻の顔を覗き込む。


輪廻は車輪のおでこに自分のおでこを重ねると妖しい笑みを浮かべて返す。


「降霊術だよ。車輪ちゃん。」


二人は両手を取り合った。


「とっても素敵ね輪廻ちゃん!」


「だけど怖いよ?車輪ちゃん。」


綿の代わりにお米の詰まったぬいぐるみ。


ずっしり重たいぬいぐるみの手を引いて、二人は古びた土蔵の扉を押し開けた。


「ここにしようか輪廻ちゃん」


「ここにしようよ車輪ちゃん」


土とカビの湿った臭い。薄暗い土蔵の中には鬼のお面に古びた時計。不気味なガラクタてんこ盛り。


好奇心に瞳をきらきらさせながら、二人は闇の奥へと進む。


「準備をしようよ輪廻ちゃん!」


「それなら任せて車輪ちゃん!」


手近な骨董品の水盆に水を並々注いだら、それを覗き込むようにぬいぐるみを配置する。


重たい鉄の裁ち鋏を握り締め輪廻は車輪に微笑んだ。


うんと妖しい奇麗な笑顔。


「始めるよ?」


車輪もニィと頷いた。


じょきん。


輪廻はぬいぐるみの背中を裂いて中身を掴んで一握り。


真っ白な米粒はカラカラと音を立てて土蔵の床に線を描く。


輪廻は壁際にあった大きなボンボン時計の蓋を開けると、残りのお米を投げ込んだ。


「さてさて始めるよ」

「さてさて始まるね」


輪廻はぬいぐるみと一緒に水盆を覗き込む。


続いて車輪も覗き込む。


「それで?それで?これからいったいどうするの?」


「ふふふ。こう言うんだよ車輪ちゃん。コショコショ…」


水面みなもに映ったゾッとするほど奇麗笑顔が二つ。


取れかけ目玉のぬいぐるみがひとつ。


二人は水盆に映るぬいぐるみに話しかけた。降霊術のおまじない。


「大変!大変!うさぎさん!」

「大変!大変!こぐまさん!」


「大事な中身が漏れてるよ!?」


「早くしないと盗られちょうよ!?」


「十数えたら探してね?」


「見るのはズルだよ?目玉は取ろう」



ぶちぶち



ポチャンポチャン…


水盆の底にボタンが沈むと、二人は近くの木箱にそっと隠れて様子を伺う。


「お神酒が無くても大丈夫?」


「未成年だからお酒はダメだよ」


二人は静かにクスクス笑う。笑っているとぬいぐるみがひとりでに動き始めた。



ずずっ…


ずずっ…


パラパラ…


ずずっ


地面に落ちたお米を辿ってぬいぐるみが這い回る。


ハァハァ荒い息も聞こえる。


ぬいぐるみはボンボン時計に辿り着くと、中に入ってお米をバリバリ貪った。


「今だ!」

「今だ!」


二人は飛び出しボンボン時計の扉をバタリ。


中からは雄たけびとドンドン叩く音がする。


「凄い凄い!!」

「凄い凄い!!」


「お化けを一匹捕まえちゃった!」


「名前をつけて飼わなくちゃ!」


「名前はうさちゃん!」

「名前はくまちゃん!」


二人は顔を見合わせて頬を膨らませると、どちらからともなく大笑い。



土蔵に響く笑い声。それに混じって唸り声。

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