ぬいぐるみの条件

水円 岳

 ぬいぐるみとはそもそもなんぞや。条件1=縫って、条件2=くるむ。その二条件が揃って、初めてぬいぐるみとして認知されるのだろう。縫っただけ、包んだだけでは要件を満たすことができない。裏返せば、縫って包んである限りどのようなものであってもぬいぐるみであると言いなせる。


 ふむ。と、なれば。条件1は自ずと満たされていると考えてよかろう。問題は条件2の方だな。何を包んであってもかまわないが、少なくとも『何かが』包まれていなければ条件を満たせないのだ。

 いやいや、深く案じすぎるのはあまりに悲観的かもしれん。たとえ包まれた中身がなくとも、空や虚無を包んでいると言い張れば良いのだから。つまり何が包まれているのかを自身でしっかり説明できる限り、条件2は必ず満たせる。


 そう考えると、条件1の方がむしろ問題に思えてくる。単純に縫い目があれば縫ってあるのだとは強弁できない。縫って包むことの必然性を自ら明示せねばならんと言うことか。ううむ、条件1の方がはるかに厄介かもしれない。

 なぜ縫って包むのか。そうせねば造形が整わないからだ。待てよ。それなら縫って造形を整えたものである限り、包まれた内容物の如何を問わずぬいぐるみとみなせるではないか。


 なるほどなるほど。二つの必要条件で設定されたぬいぐるみの定義には、触感、サイズ、重量、愛玩性、可搬性、美的要素などは欠片かけらも含まれていない。絶対的な存在意義すら定義に含まれていないのだ。


 よし。改めて、二条件が充足されているかどうかを確認してみよう。

 条件1。縫うことで造形を整えてあること。間違いなく条件を満たす。縫い合わせないと存在し得なかったのだから、間違いない。

 条件2。何かが包まれていること。これは説明容易だ。『自我』でいい。


「そうか。俺はぬいぐるみだったんだな」

「おい、何をぶつぶつ言ってるんだ? フランケンシュタイン」


【おしまい】

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ぬいぐるみの条件 水円 岳 @mizomer

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