KAC20232 ピンクのクマのぬいぐるみ

この美のこ

ピンクのクマのぬいぐるみ

 私にはパパもママもいない。

物心ついた時からいなかった。

でも、優しいおばあちゃんはいる。

だから淋しいって思ったことは、なかった。

ううん、本当は一度だけ泣いておばあちゃんを困らせたことはある。

「どうして、桃にはパパとママがいないの?」

泣きながら眠った翌朝に、私のベッドの枕元にピンクのクマのぬいぐるみが置いてあった。


 「うわぁ、かわいい~」

私は、ピンクのクマのぬいぐるみを抱きしめて、嬉しくって飛び跳ねていた。

おばあちゃんがやってきて

「どう、気に入った?おばあちゃんが作ったんだよ」

「ほんとに~。嬉しい!おばあちゃん大好き!」

おばあちゃんは、その時こう言ってた。

「淋しくなったら、このぬいぐるみを抱いてごらん。きっと淋しくなくなるよ」


 それから私はいつもこのピンクのクマのぬいぐるみと一緒に過ごした。

おばあちゃんの言う通りだった。

淋しくなって抱きしめたら、なんだか温かな気持ちになって元気になれるんだ。

だからもう、泣いておばあちゃんを困らせることもなくなった。


 あれから二十年、私は二十五歳になった。

今、手元には少し手垢で汚れたピンクのクマのぬいぐるみがある。

今日、私は運命の出会いを感じる人との結婚式を挙げる。

結婚式にはピンクのクマのぬいぐるみも一緒だ。

お嫁に行く時に持っていくと決めていた。

おばあちゃんも私の花嫁姿に泣いている。

ありがとう。おばあちゃん。

私、この人と幸せになるね。


 その二年後には私もママになった。

可愛い女の子で、桜と名付けた。

ピンクのクマのぬいぐるみは、今度は私から桜にプレゼントしよう。

おばあちゃんが、心を込めて作ってくれたピンクのクマのぬいぐるみ。

お陰でずっと淋しくなかった。

ずっと笑顔にしてくれた。

私の人生を共に生きてきたピンクのクマのぬいぐるみ。


今度は私の人生と桜の人生もずっと見守っていてね。

ありがとう。

私のピンクのクマのぬいぐるみ。



近況ノートにピンクのクマのぬいぐるみの画像あります。

https://kakuyomu.jp/users/cocopin/news/16817330653965049712

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