ダンス・ヒューマニティ・ダンス
御子柴 流歌
ここはさながらユートピア
経年的な老朽化が見えながらも、整備はしっかりと行き届いている関節を、それでもギリギリと言わせながら飼い主の傍らを歩く『犬』。
そんな『犬』に向かって、シリコンカバーを付けてもらっている『犬』が吠えかけている。
そんな『犬たち』を、また別の『犬』――こちらは見るからにぬいぐるみでできているような見た目をしている犬が
正午過ぎの公園は天気が良いことも相まって、いつにも増して騒がしいように見える。
不思議に思ったが、よく考えればノイズキャンセリング機能が全開になっていた。
いつもの癖だった。さすがに外でこれはマズいので、半分程度まで弱めておく。
3D映画でも見るようなメガネ越しの世界は、視線を細かく動かす必要も無い。
ただ漫然と前にあるように見える世界を捉えていれば、世界なんてもはやそれだけで充分なモノでしかなかった。
『ハイパープレイクスルー』と、前時代的なネーミングセンスで名付けられた技術革新は、この世界に今度こそ大きな変化を与えた。
当時はマンガの世界でしか考えられなかったような機械やシステムが、こうもあっけなく新種の強毒性ウイルスのように広がっていくとは誰もが思わなかったが、特段のアレルギー反応を示すこと無く世界はそれを受け入れてしまうとも誰も思っていなかった。
いちばんの驚きは、あれだけ『IT化』や『ハンコレス』にすらアレルギー反応を示していたこの国も、『ハイパーブレイクスルー』の例外ではなかったことだろう。
何十年も前に『都会の中のオアシス』とかいうこれまたチャチなキャッチコピーを付けられた高層ビル屋上の公園は、いろいろなタイプの『着ぐるみ』で溢れている。
こども向けのショーか何かに出てくるような、あるいはこどもが好むぬいぐるみような、全身を二頭身スタイルで完全に覆うタイプ。――これがいちばん多いだろうか。
それよりもやや機動性に優れるタイプ。――かつては企業戦士などと揶揄されたタイプの者は、このスタイルを選ぶだろうか。
いわゆる戦隊モノのユニフォームのように、身体とされる構造にフィットするタイプ。――これを選ぶのは、趣味の領域だろうか。
実に様々だった。
それもそうだ。
どんなカタチでもいい。
何なら、二本の足で立つ必要も無い。
――ニンゲンのカタチをしている必要すら、無い。
しかしそれで何か問題が起きるようなことも、無い。
ここは、そういった意味ではユートピアなのかもしれない。
誰ひとり、「それはニンゲンでは無い」と叫ぶことすら無いのだから。
ダンス・ヒューマニティ・ダンス 御子柴 流歌 @ruka_mikoshiba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます