第3話 復讐ハッピーエンド
チサの苛められっ子生活は凄惨なものだった。
クラスの男子全員が見ている前で行われる公開処刑のような行為の数々。
その度にチサの心はボロボロになっていった。
クラスの女子たちはそんな様子を見ていたが、誰も止めようとはしなかった。
むしろ、楽しんでいる節すらあったくらいだ。
(なんで私がこんな目に遭わないといけないんだろう……)
そう思わずにはいられなかったが、抵抗すればするほど酷い目に遭うことになるので耐えるしかなかった。
そんな日々を送っていると、やがて転機が訪れた。
いつものようにイジメられて自室で泣いていると、声が聞こえてきたのだ。
『大丈夫?』
それは優しい声色だった。
顔を上げると、目の前にぬいぐるみが立っていた。
彼女が幼少の頃から大切にしてきた、ティンクルという名のぬいぐるみだ。
(ティンク……ル……?)
何故ぬいぐるみが立っているのだろうと思ったが、そんなことはどうでもいいと思った。
それよりも、今は誰かに話を聞いて欲しかったのだ。
「ぐすっ……うぅっ……」
嗚咽を漏らしながら泣く彼女を優しく抱きしめると、彼女は語り始めた。
『辛かったよね……もう大丈夫だから』
その言葉を聞いて安心したのだろう。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
目が覚めると、そこはベッドの上だった。
(あれ……? いつの間に寝てたんだっけ……?)
不思議に思っていると、部屋の外から男の声が聞こえてきた。
「おーい、チサちゃん! もう学校に行く時間だぞー!!」
「……っ!?」
ビクッ!
その声に反応し、慌てて飛び起きるチサ。
(いけない……! 早く準備しないと……!!)
登校を拒否すると、写真や動画をバラまくと脅されているのだ。
彼女は急いで着替えると部屋を飛び出す。
その際にチラッと見えた鏡に映った自分の姿に驚いた。
(なにこれ!?)
髪は燃えるような赤色に染まっていた。
それに、どことなく体に活力がみなぎっているような気がする。
(どういうこと!? なんで髪が赤くなってるの!?)
訳が分からないままリビングに向かい、母親が異変に気づかない内に素早く朝食を食べて家を出た。
するとそこには大勢の男子生徒たちが待っていた。
皆一様にニヤニヤしながらこちらを見ていることから察するに、今日もどうやら自分を笑いものにするつもりらしい。
(はぁ……また今日も始まるのか……)
憂鬱になりながらも彼らの元に向かうチサだったが、そこでさらなる違和感に気付いた。
(なんかいつもより彼らの身長が低い気がするんだけど……気のせいかな?)
そう思いつつも歩みを進める彼女であったが、不意に男子の一人が声をかけてきた。
「おいチサ! いつまでチンタラ歩いてるんだよ!」
「ご、ごめんなさい」
「ったく。遅刻したらお前のせいだからな!」
「……」
チサは何も言い返せなかった。
イジメのためにだけ迎えに来ているのは、彼らの勝手だ。
自分のせいにされる筋合いはないのだが、それを言うと面倒なことになるのは目に見えているので黙っていることにした。
「へへっ。今日はコイツに何をさせる?」
「そうだなぁ。そろそろ下級生に挨拶回りでもさせるか? もちろん服は脱いでな」
「いいねぇ! 放課後が楽しみだぜ!!」
そんなやり取りを聞きながら、これから行われるであろうことを想像して身震いするチサ。
男たちはそんな彼女の様子を見て、邪悪な笑みを浮かべている。
「おら! 聞いてるのか! 何とか言ったらどうなんだ――ん?」
「あれ?」
「なんか変じゃね?」
そこでようやく、男たちは気付いたようだった。
チサの身長が一回り以上高くなっていることに。
そして、髪の色が変わっていることにも……。
「なんだぁ~? いっちょ前に染めたってわけか?」
「生意気な奴に~ドロップキックだ!」
「ギャハハハ!」
そう言って笑い合う男たち。
だが、それもすぐに止むことになった。
なぜなら、ドロップキックを受けてもチサは全くダメージを受けていなかったからだ。
いや、それどころか逆に弾き飛ばされてしまう始末であった。
ドサッ!!
尻餅をつく男子生徒たちを見下ろすチサ。
その表情は冷たいものだった。
「……蚊が止まったかと思った」
「ひぃっ!?」
あまりの迫力に気圧されてしまい、腰を抜かす男子生徒たち。
チサは拍子抜けした。
どうしてこんな奴らに自分は怯えていたのだろうかと……。
「な、生意気な目をしやがって! 分かってんのか!? 俺たちのスマホには、お前の写真や動画が大量にあるんだぞ!?」
そう言って脅してくる彼らを冷めた目で見ながら呟くように言った。
「……それがどうしたの?」
その言葉を聞いた瞬間、彼らは絶句してしまった。
まさか反抗してくるとは思わなかったのだろう。
しかし、すぐに気を取り直して再び声を荒げる。
「ふ、ふざけんなよ!! この画面をタップすれば、学校中に拡散され――あれ?」
そう言いながらスマホを操作しようとする彼らだったが、失敗に終わった。
超速で動いたチサにより、スマホを取り上げられてしまったからである。
「はい、これで終わりっと」
チサはそのまま、握力のみでスマホを粉々に砕く。
彼女は、それを見て呆然としている彼らを見ながら言った。
「これでもう何もできないでしょ? それともまだやるつもりなの?」
その威圧感を前に何も言えなくなってしまう男子生徒たちだったが、それでも諦めきれなかったようで口々に喚き始めた。
「ち、調子に乗るなよ!」
「そうだ! 学校に着けばトオル君にチクって――ぷげらっ!?」
そこまで言いかけたところで、彼らはいきなり殴り飛ばされた。
ぬいぐるみティンクルの加護を得たチサにとって、もはや彼らは脅威ではない。
彼女は憎き相手をしこたま殴り続けたあと、全裸にして道路脇に放置してやったのだった。
そして、チサは何事もなかったかのように登校する。
「――あん? おいチサ。お前、どうして一人で来たんだ? 他の奴らはどうした? しかも、その髪は何だよ?」
教室に入ると、早速トオルが絡んできた。
いつも一緒にいる取り巻きがいないことを疑問に思ったのだろうが、答える義理はないので無視することにした。
「ほう……? いいのかな? そんな態度で……」
怒気を含んだ声でトオルが言う。
昨日までのチサであれば、一瞬で震え上がってしまうほどの迫力があっただろう。
だが、今の彼女には効かないようだ。
「何のこと? 私はいつも通りだけど」
平然と言い放つ彼女に苛立ちを覚えた様子のトオルは舌打ちをすると、教室中に響く声で言った。
「全員聞けぇ!! 今からショータイムを始める! 邪魔する奴は同じ目に合わせるからな!!」
突然の宣言に静まり返るクラスメイトたち。
どちらかと言えば、恐怖よりも興味の方が大きかったようだ。
トオルグループ、いやクラス全体によるチサへのイジメは、既に日常茶飯事となっていたためである。
むしろ、今回はどんな酷い目に遭わせてくれるのかと期待し、スマホを構える者までいたほどだ。
「さぁて、チサちゃんの今日の下着は何色かなぁ~。皆の前でヌギヌギしようねぇ~」
トオルはそう言っていやらしい笑みを浮かべると、チサににじり寄ってくる。
しかし――
「ぎゃふっ!?」
次の瞬間、チサによって床に叩きつけられていた。
あまりの威力に床板が割れてしまっている。
(あ、あれ?)
困惑するトオルだったが、すぐに叫んだ。
「お、お前! 何をしてるか分かってるのか!? これは立派な犯罪だぞ!? 警察に訴えてやるぞ!?」
その言葉に一瞬キョトンとした後、チサは言った。
「どうぞご自由に」
そう言うと同時に、今度は机を持ち上げて投げつける。
咄嗟に避けようとしたようだが間に合わず、顔面に当たってしまった。
「うぐぐ……痛いよぉ……」
鼻血を流しながら泣き出すトオル。
チサは次に、楽しげに傍観していた女子グループのところへ向かう。
「ちょ、ちょっと待ってよ。私らは別に……ああぁっ!?」
言い訳も聞かず、チサは無慈悲にスマホを破壊していく。
文句を言う奴は鉄拳制裁。
このわずかな時間で、チサはクラスを掌握していた。
「――さて、他に文句のある人はいる?」
彼女が見回すと、全員が首を横に振っているのが見えた。
それを見た彼女は満足そうに頷きを返す。
そして――
「首謀者のトオル。君は?」
「え……?」
名前を呼ばれたことで我に返った様子の彼に歩み寄りながら尋ねる。
すると彼は顔を真っ青にしたかと思うと、その場に土下座をした。
「ごめんなさい! もうしませんから許してください!!」
必死に謝罪の言葉を口にする彼に対して、チサは静かに告げた。
「ダメに決まってるでしょ?」
その瞬間、彼の体は宙を舞っていた。
目にも留まらぬ速さで繰り出された蹴りを受けたのだ。
ドゴッ!
鈍い音と共に壁に激突するトオルの体。
そのままズルズルと崩れ落ちると、白目を剥いて気絶してしまった。
「このクラスは私が支配してやる! 逆らう奴は皆殺しだぁ!!」
こうして、チセによる恐怖の復讐劇が幕を開けたのだった――。
学年一の人気者と付き合った私、裏切られクラスでイジメを受けるも、ぬいぐるみの不思議な力を借りて復讐する。土下座で謝られてももう遅い 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei
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