私たちの子供

銀色小鳩

私たちの子供

 ただの友人になることを、里沙はどうして黙って承諾したんだろう。

「招待状、行きたくなかったらいいえで返す。他の人には用事だって言うから、出すだけ出しておいて」

 小さな声で言う里沙の瞳は暗い光を湛えていた。私は短く「わかった」とだけ返した。破けるような胸の痛みと安堵感。

 付き合った数年間を返せと言われれば、返せる言葉なんて何もなかった。私から関係を迫って私から振った。ひどいと言われればその通りとしか言いようがない。もっと詰って良かった、私の心でも、身体的特徴でも、最大限の言葉の刃で抉ってくれて良かったのに。

 最低の烙印を自分自身に押して、なるべく会わないようにしたから、次に里沙の声を聞いたのは夫と離婚して五年後のことだった。

「どうしてる?」

 変えたはずの電話番号がなぜわかったのだろう。懐かしい声を聞いたとたんに、里沙の体温を思い出し、記憶の中に封じ込めていたものが涙と一緒に溢れだした。最愛の娘が見つからないまま、どちらが目を離したと罵り合い、お互いを責める言葉も労わる言葉もなくなり、視線すら交わさなくなって離婚した。そもそもが子供欲しさの結婚で、夫に対する愛などなかった。子供から目を離したことを責める見知らぬ誰かからの電話かと思ったのに。

 里沙は黙って話を聞いてくれた。彼女は昔からそうだ。

「送ったもの、届いてる?」

 そういえばさっき宅配便を受け取ってテーブルに置いたままだ。差出人は私の名前になっている。このような箱を自分宛に送った記憶はなかった。里沙が、夫婦関係に遠慮して私の名前で送ってくれたのか。開けるとぬいぐるみが入っていた。

「どうしたの、これ」

「テディベア好きだったなって」

 懐かしむような声が心に沁みた。

「縫ったの。私の子供のようなものね」

 抱きしめると普通より重い感触に充足感を覚えた。

「あなたのDNAも入ってる。二人の子供よ。大切にしてね」

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私たちの子供 銀色小鳩 @ginnirokobato

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