なくした宝物を見つけ出せ! ぬいぐるみ大好きおじさん奮闘記

無月弟(無月蒼)

第1話

 ある週末の夜。一仕事終えた俺は家へと帰り、リビングでくつろいでいた。

 キッチンでは、妻が晩飯の用意をしてくれていたのだけど。何の気なしにスマホをいじっていると、ツイッターでこんな投稿を見かけた。


『娘が大事にしていたぬいぐるみを探しています。○○県○○町にお住まいの方、どなたかご存知ないでしょうか?』


 そんな呟きと共に、可愛らしいクマのぬいぐるみの写真が添えられている。

 ツイートをよく読むと、なんでもこれは5歳の娘さんが大切にしているぬいぐるで、どこに行く時も肌身放さず持っていたと言う。

 だけどそのせいだろう。昨日公園に持っていった際に、なくしてしまったのだという。


 ツイートを見終わると、俺はすぐに立ち上がって妻に言った。


「ちょっと出てくる」

「あなた、どこに行くの?」

「ツイッターで、こんなものを見かけてな」

「えーと、ぬいぐるみを探しています……○○町って、ここじゃない」


 そう、妻の言う通り、どうやらこの人は同じ町に住んでいるようで。

 ぬいぐるみをなくした公園は、うちの近くだ。


「今から行って探してくる」

「探すって、今から!? もう夜よ」

「こういうのは初動が大事なんだ。モタモタしてて、見つからなかったらどうする」

「それはそうだけど。どうしてそこまで拘るの?」


 妻の疑問ももっともだろう。困っているとはいえ、所詮は見ず知らずの他人。放っておいても何の損もない。

 しかし、しかしだ。俺にはどうしても、これを見過ごせない理由があった。


「実は今まで黙ってたけど。俺は子供の頃、ぬいぐるみ集めが趣味だったんだ」

「それは初耳ね」

「ざっと2、30体は持っていたかな。UFOキャッチャーで取ったり、お年玉で買ったりもしてた。けど俺の親父は、それをよしとはしなかったんだ。男がぬいぐるみを好きだなんておかしい。もっと男らしい趣味を持てって」


 あの時の親父の言葉はショックだった。

 別に男が、可愛い猫ちゃんや犬くんのぬいぐるみを持ってたっていいじゃないか。

 しかし頭でっかちな俺の親父はそれを認めず、暴挙に出た。


「小6の時、学校から帰ったらな。ぬいぐるみが全部捨てられてたんだよ20体以上あった全てが」

「まあ……」

「あの時は親父を恨んだ。殴りかかりもした。すると見かねたお袋が、新しく買ってあげるから機嫌直してって言ってきたんだ。けどな……」


 他の物ではダメなんだ。

 例えば飼っていた犬が亡くなって、後に別の犬を飼ったとしよう。だけどそれは、先代とは別の犬。失ったものが、戻ってくるわけじゃない。

 ぬいぐるみだって同じだ。アイツらは俺が、一体一体愛情を込めて、我が子同然に大切にしてきたぬいぐるみたち。代わりを用意したからって、納得いくはずもない。


「きっとこのクマをなくした子は、あの時の俺と同じ気持ちだ。大切な親友を奪われて、悲しみにくれている。俺にはわかる」

「あなた……後半は妄想が入っている気もするけど、言いたいことは分かったわ」

「分かってくれたか。というわけで行ってくる。晩飯、残しておいてくれよ!」


 そう言って、俺は家を飛び出していく。

 待ってろよクマちゃん。俺が必ず見付だして、ご主人様の所に帰してやるからな!


 その後俺は夜の公園に行き、地面を這いつくばって探した。

 途中不信に思った近所の人が警察に通報したけど、事情を説明して事なきをえて、夜が明ける頃にようやくクマちゃんを見つけることができた。

 どこをどう移動したのか、植え込みの中に隠れていたんだ。

 見つけた時は可愛らしい顔で、まるで『見つけてくれてありがとう』って言ってるみたいだった。

 こいつー、心配かけやがってー。


 そうしてツイート主に連絡を取り、ぬいぐるみを届けた時、女の子はまるで太陽のような笑顔を見せてくれたんだ。


「ありがとうおじちゃん!」


 ああ、この笑顔で、苦労が報われた気がする。 

 思い出のつまった大事なぬいぐるみ。大切にしてくれよ。


 ちなみにこの後俺は、晩飯をすっぽかした罪を償うため、妻にぬいぐるみではなく高級バッグを買うことになったのだけど。それはまた別のお話。


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なくした宝物を見つけ出せ! ぬいぐるみ大好きおじさん奮闘記 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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