宏樹君の休日2

代官坂のぞむ

第2話

 さっきから見てるでしょ、と言われても、宏樹には全く身に覚えがなかった。店に入った時にセーラー服が目についたのと、新刊書の棚で避けられた時に、ちらりと見ただけで、それからは本に集中していたから、全く見ていない。いきなり目の前に現れて、びっくりしたくらいである。


「ずっとこの本を読んでいたから、君のことなんか見てないよ。自意識過剰なんじゃないか?」

「そんな本を読んでいるふりをして、あなたも、これに目を付けてるんでしょう」

 少女は、片方だけ肩にかけたリュックのベルトを握ると、後ろに隠すように体を引いた。リュックには大きな荷物が入っているようで、パンパンに膨れていて、ふたから、白いふわふわしたものがはみ出している。


「別に、君の荷物なんかに興味ないし。なんか、ふたからはみ出してるみたいだけど」

 その言葉を聞いた少女は、あわててリュックを体の前に回して、ふたの中にふわふわしたものを押し込み始めた。しかし、ぎっしり詰まったリュックの中には、もう入らないようで、押し込んでもすぐにはみ出してくる。

「あああ。こんなに見えてたら、他の連中にも目を付けられちゃう。どうしよう」

 少女は、焦って無理やり押し込もうとするが、なかなか収まる様子はなかった。


「一度ふたを開けて、ちゃんと中に入れなおしたらどうだ? その方が早いと思うけど」

「そんなことを言って、開けたところで奪うつもりでしょ! やっぱり、これを狙って近づいてきたんだ」

「いや、近づいてきたのそっちだろ。嫌なら、向こうへ行ってゆっくりしまってこいよ」

 宏樹は、手に持っていた本を閉じて本棚に戻した。訳のわからない少女の相手をしていても、ろくなことにならなそうだったので、立ち去るつもりだった。


「手を出さないでよ」

 少女は後ろを向いてリュックのふたを開け、中の物をひっぱり出した。宏樹には、大きな白いぬいぐるみのように見えた。



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