☆KAC20232☆ 予感 (桜井と瀬田①)

彩霞

醜い顔の男

 今年の春、大学生になった雄一はバイトを探していたが中々決めることができないでいた。選り好みしなければどこでも受かりそうなものだが、彼の場合、顔が問題らしかった。


 雄一の顔は元々不格好で、近寄りがたいようないびつさがあった。その上、幼いころに、自分の背よりも高いテーブル置いてあった湯飲みををひっくり返してしまい、左側にやけどの痕が残っている。

 同級生からは怖がられていたのでいじめられることはなかったが、友達にはなれなかった。学校はそれで仕方ないと思ったが、社会はもっと厳しかった。バイトの面接では洗礼を受けた。いくらやっても受からない。勉強が得意だったこともあり塾の講師や家庭教師を受けてみたが、かすりもしなかった。唯一受かったのは、テーマパークでぬいぐるみを着るバイトである。


 社会は自分のような人間を差別してはいけないとしているが、そう簡単になくせるものではない。寧ろ自分を受け入れてくれたことに感謝し、バイトの初日に指定された事務室へ向かった。


「失礼します」

 挨拶はするが俯いて事務所に入る。彼と会う人は皆、驚いて顔を引きつらせたり出来るだけ見ないように視線を背けたりするので、それが見えないようにした。

 だが、そのときである。


「お、来たな!」


 一人明るい声を出した人がいた。そっと顔を上げると、快活で爽やかな笑みを浮かべた茶髪の青年が雄一を見てにっと歯を出して笑っていた。


「俺、瀬田大樹。君は?」

「えっと、桜井雄一です……」

「よろしくな! 俺、新入りに仕事を教えるサポーターだから、分からないときは遠慮なく言ってくれ」


 自分の顔を見ても全く動じない彼を見て、雄一は同じ部屋にいた他の人たちのことが気にならなくなり、気持ちが明るくなっていくのを感じた。


 ——もしかしたら、上手くやっていける……?


 彼との出会いがこの先の人生を明るく照らすことを、雄一はまだ知らない。





 


 

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