行けなくなった本屋

影津

一話完結

 レンはまだ作家志望者のままでした。


 ある晴れた日のことです。物書きを志して十年以上が経ちました。未だに一次選考から上には上がれません。本屋で色んな本を買ってはみるのですが、行くのがだんだんと億劫になってきます。


 どうして、神様は僕の書いた本を受賞させて、デビューさせてくれないの?


 そんなことがふと、足を止めさせるのです。

 秋風に吹かれながら、ジュンク堂から踵を返します。


 大好きな本屋が嫌いになった。だって、僕の本は置いてないから。


 仕方なくレンは、自宅に帰って執筆します。

 そのパソコンの中の白紙のワードの世界に妄想を蔓延らせていきます。


 文字は駄文。文法もところどころ間違っていましたが、本人は楽しくて気づきません。気づくことができません。


 ウェブで投稿していないので、当然ながら読者は作者のレン一人だけ。ファンもいません。家族にも見せません。


 ただ、今日の分を書き終えると、何かを読んで勉強しなければいけないような気がしてきます。


 何を読めばいいのか分かりません。

 好きな本を読むべきなのでしょうか。


 小説の書き方。新人賞の取り方。そういう本は本棚にたくさん入っています。それも何度も読みました。


 ほかに一体何を。


 翌日、再び本屋に向かいました。


 特に欲しい本はありません。


 店頭に並んでいる有名な本は、どれも興味を惹かれません。では、何を読めばいいのか。目がぐるぐる回ってくるような錯覚に足が竦みます。


 やはり、今日も何も買うことができないかもしれない。


 本屋を行き交う人の靴音が、耳に痛いようです。


 ただ、レジに目をやると、たくさんの本を抱えた人が目に入ります。


 あんなふうになりたいと思いました。


 特に好きな本はないけれど、少しでも興味のある本から始めようと思いました。


 裏のあらすじを読んで、買って失敗したとしても何か読もうと思いました。


 5冊を選ぶのに一時間かかりました。

 しかし、その一時間はウォーキングしたように心地よい体温をもたらしました。


 レンはレジに本を置くと、少し心躍りました。


 いつか自分も本屋に本を置けるようになりたいけれど、きっとそれまでもっと時間や技術が必要です。


 今できることを少しずつやろうと思いました。

レジ袋に入れてもらった本がずっしりと重くて、買って良かったと思いました。


 

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