至上最強の魔法使いは裏路地本屋の眼鏡さん?

とざきとおる

第1話 私の未来の師匠との出会い

 海上の大亀の上にある国、タートルリベリア王国は魔法技術が最先端の国であり、それゆえ、この国に住んでいる大人はみんな魔法使いだ。


 私はこの国を魔法で守る王立魔法騎士団に、幼いころからあこがれていた。


 だってみんなにちやほやされる素敵な職業だし。それに給料いいし。


 だから頑張った。


 さすがに王国中から天才が集まってくる学校で一番は取りにくかったが、それでも毎回学年トップ10には入っているからヨシ。


「アイナ、今からどこ行くの?」


 今は話しかけてきた学年1位のマジな天才ちゃんにもライバル扱いされて、ほかの子にも、学校でも一目置かれてちやほやされてる。


 ああ……たのちい!


「バイト。学費は稼がないとね」


「アイナも好きだね。どうせなら後輩の指導とか、魔物の討伐とか、いくらでも稼げそうなのに」


「まあお誘いがあればやるけどね。今の仕事もちょっと気に入ってるんだぁ」


 そう、唯一私が変わっていると他人に評価されるとしたら、本屋のバイトをしているということ。


 でも、それには深い訳がある。私の運命を変えたある出会い。それがきっかけ。


 私がこの学校でうまくやってけてるのも、そこにいるししょーのおかげかも。






 タートルリベリアは私がちょうど王国士官学校に入学しに来た次の日、軍事帝国サラマンダイア帝国の突如とした襲撃を受けたことがあった。


 帝国は翼竜を従えてやってきた。竜は使役生物の中でも最強の種のうちの1つ。本気で国をつぶしに来たことが分かった。


 さすがの私も……あの憧れの王立魔法騎士団が無敵じゃなくて、やっぱりただの人だったんだってことがちょっとショックだった。


 どんどん死んでいく憧れの存在。


 それを見るにつれて、私は怖くなって逃げたけど、王都からどこへ逃げようというのか。あとは王城に追い詰められて終わりなんじゃ……。


 そう思って表の通りから、みんなが逃げていく方向から外れて、裏路地に1人逃げ込んでしまった。そんなことしても意味ないのにと、わかってはいたのだが。


 ただ、私にとってはそれは運命の出会いだった。


 その道にある、微妙な木の看板、『裏路地の隠れ家(本屋です)』の近くにあるドアから眼鏡で上半身裸、下半身をズボン1枚で隠した変態が現れたんだ。


「なんだ? 騒々しいなぁ。お、ははは、なんだ面白いことになってる。風呂に入ってるから参加が遅れてしまった」


「ひ」


「ん。ああ、安心してくれお嬢さん。俺は帝国人じゃないよ」


 違う! あなたが変態だから!


 その人は慌てる様子もなく、1冊の本をもって、爆発が起きまくっている現状を、伸びをしながら歩く人だった。


 まあ、その。馬鹿だと思った。変人だと思った。


「逃げないと!」


「逃げるってどこに。タートルリベリアは海上の国だ。王立魔法騎士団が負けたなら素直に滅びを迎えるしかないだろう?」


 私に手を差し伸べる。当時不安でいっぱいだった私は、なんの迷いもなくその手を取って尻もちをついているところを立ち上がらせてくれた。


「まあ、それは俺が困る。今からじゃ本の引っ越しは間に合わない。それにここにいたら死んでしまう子もいるしな」


 表通りに何のためらいもなく歩いていくその人。


 でも表通りには、帝国のやつらがせめて来てる!


「だめ!」


「まあまあ。こっそり見てなさいって」


 と、行ってしまった。


 バカな人。逃げようか……。


 ごぉおおああああああ!


 近くで翼竜が炎を吐く音がした。ああ、もう逃げられない。ならみんなで一緒に逃げるべきだったかな。


 どうせ死ぬのだ。なら、あの男の言う通り、こっそり見にいってみよ。


「私の前にそのような姿で、不埒者め」


「俺の本屋が近くにあるんだ。悪いが帰ってくれないか」


「本屋? はぁ。道化か。ただの本屋がしゃしゃり出てくるな。馬鹿め」


 帝国の人にもバカって言われてるし。


「店潰れた食っていけないしぃ」


 全身甲冑姿の帝国軍人が剣を抜き、もはや路傍のごみと同じだと切り捨てようとした。


「な……?」


 信じられなかった。


 自分の周りに防壁を貼る魔法は知ってるけど、見えない防壁なんて初めて見た。剣を全く通していない。


「馬鹿な……! 魔法すら斬る剣だぞ」


「防壁だと思ってるだろ。それじゃあ俺を斬れないよ。そしてさらにビックプレゼントだ。くるくるぅー」


 いつの間にか魔導書を開いて魔法を発動していたようだ。


 あの人、すごく魔法がうまい。無詠唱なんて王立魔法騎士団の歴代の中でも天才と呼ばれるような人がすることだ。


 あの人はさらに別の本を重ねて上で開いた。そして人差し指を天へと向けて、指先で円を描く。


「何を」


 翼竜の咆哮が各地でとどろいた。


「リーダー! 大変です! 翼竜が我々を攻撃し始め、うわああああ」


 違う道から顔を出した人が炎から逃げていく。


「なにを……」


「最強の使い魔が敵になったら侵攻どころじゃないねぇ。さて、暗示をかけようか」


「やめ」


「くるくるぅ」


 さっきまで男に斬りかかっていた騎士が、剣を落とし、来た道を引き返していった。


「ええ……」


 すごいというより困惑だった。あの人は一体、

「俺が一体何者なのか。かい?」

「ひ」

「その反応はさっきやっただろう」

 だから! 半裸が近くに来たら怖いんだって!


「ただの本屋の店長だよ、せっかくだし寄ってくかい? どうせほとぼりが冷めるまでは、街にいてもしょうがない」


 その人に連れられて私は怪しい本屋さんに入ることになった。


 その日のうちに侵攻は撃退されたという知らせが国全体に流れた。民の多くは王立魔法騎士団の功績だと言ったけど、私だけがこの男のおかげだと知っている。






「おつかれさまです」


「おお、アイナっちおつー」


 そんな縁で今はここでバイトをしている。たくさんの本がぎっしり並んでいるこの光景をここから見るのは、最初の日の壮観の感動を思い出させてくれる。


 たまーに人が来たら接客をしているが、なかなか人は来ないし、来ても本を買うわけじゃなく、本好きな人が来て男、つまりここの店長と話で盛り上がることばかり。


 最近は私も混ざることができるようになってきた。


 掃除と接客がない時間は、私はここで本を読んでいる。店の本を読んでいいと店長から言ってくれたから。


 面白い本ばかりだ。わからないことは店長が教えてくれる。


 この人、本当に何者なんだろうと思うのは、魔法学書物もたくさん置いてあって、私がわからないときはめちゃくちゃわかりやすく教えてくれるとき。


 ここにある本を読んで、学校の勉強に結構役立っている。そういう意味で、この人は私にとっての魔法学の先生や師匠といっていいのだが。


 前に一度ちゃんと弟子入りを志願したときは、

「やだよー。俺は店長、君は店の可愛い看板娘。それでいいじゃないか。結婚してくれるなら考えるけどねー」

 と、きっぱり断られてしまった。


 でもあれほどの魔法が使えるのなら、それこそ王立魔法騎士団のエースで違いないのに。


 ただ、店長は過去の話を聞かれたくないらしい。最近は私という話し相手が増えて楽しいからそれでいいのだそうだ。


 むぅ。気になる……。


 だから私はこのバイトを続けている。いつか、ちゃんと弟子になりたいと思うから。

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