古本屋トレジャーハント

腹音鳴らし

『宝物は、洞窟の中に』

 世の中には『せどり』という商売がある。

 いわゆる転売だ。


 1990年代の古本屋は、まだ現代よりも商品の管理体制が整っておらず、あらゆる意味で店の経営が雑だった。そのくせ店舗数だけはやたらに多く、私が住んでいた市内だけでもそれらしきものは十軒を数えた。大方の古本屋は漫画、小説、雑誌などの書籍類をはじめ、CDやレコードなども取り扱っていたのを覚えている。


 さて、当時学生だった私は、校則によってバイトを禁じられていた為、前述のせどり行為によって収益を得ていた。

 その頃の買取体制というものは非常に雑で、現在のように身分証明などは必要としなかった。私は高額買い取りの流行り漫画を聞きつけては、激安販売の古本屋を探し出し、その差分を見極めてせどりを行っていたわけである。


 そのうち、噂を聞きつけた別の学生達から、「自分たちも甘い汁を吸わせてほしい」と打診があり、私は快く彼らを引き入れた。そして大所帯になった我々は、組織的に活動するようになり、それぞれの担当地区を決め、密に連絡を取り合ってその後も収益を上げ続けた。


 ところが、しばらくすると、組織を抜けて独自に収益を上げる者達が現れ始めた。

 彼らは我々から奪ったノウハウをもとに、分け前が少なくて済む後輩を巻き込むと、新しい組織を立ち上げた。そして、我々の縄張りを荒らしまわったのである。


 今では考えもつかないだろうが、当時せどりはそれほどの収益を上げることができたのである。まさに古本屋は、我々にとって宝の洞窟だったのだ。


 当然ながら、両組織の縄張り争いは日を追うごとに激化し、買取価格の偽情報まで出回る始末だった。

 この時点で、私はうっすらと「ああ、ヤクザの抗争ってこうやって起きるんだな……」と思いながら、捕らえた敵対組織の構成員粛清に明け暮れていた。


 しかし、我々が不毛な争いを繰り返しているさなか、その事件は起きた。


 古本屋にも動きが出たのである。学生による流行り漫画の大量買い占め、からの大量売却を察知した店長達は、ある日を境に販売および買取価格の調整を行ったのだ。これにより、他店舗間での価格差はほとんど出なくなってしまったのである。


 古本屋が放ったこの強烈な一発が、両組織を完全にぶっ壊した事はいうまでもない。収入源を失った私は、すっかり意気消沈していた。



……しかし、それから二十年後。私は驚愕の事実を知る。



 実は私の弟が、私や同級生達がくだらない縄張り争いをしていたその裏で、当時はまだ誰も見向きもしていなかった『トレーディングカードのせどり』をしていたというのだ。この隙間産業は見事に功を奏し、弟は競合相手もおらず、古本屋にすら警戒されないまま、学生にあるまじき大金を手に入れていたのである。


 呑み屋でウイスキーに酔った弟から話を聞かされた私は、ウーロン茶を呑みながら苦笑いした。



 洞窟にはまだ、宝物が眠っていたわけである。



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古本屋トレジャーハント 腹音鳴らし @Yumewokakeru

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