キミのいた風景
つきの
キミとわたし
『金月堂』というその本屋さんは銀天街のなかにあって、放課後ともなると学生たちで溢れていたものだ。
入口には週刊誌と漫画本、絵本や画集や参考書に新刊書籍、文庫本は一番奥の方。ちょっとしたレターセットも置いてあったりして。
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そういえば地元の銀天街は
あの頃……ああ、もう40年も前になってしまうのか。
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普通に立ち読みも(あまり長時間でなければ)できた時代。
キミはいつも入口付近で漫画本、わたしは奥の方で文庫本を探しながらお互いを待っていた。
ケイタイデンワなんてなかった時代の待ち合わせはいつもドキドキしていて、だからこそ、そこにいる学ラン姿のキミを見つけた時は嬉しかったっけ。
そんな青春の日々……。
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キミは都会の大学に進学して、わたしは地元の短大に進んだ。
長距離恋愛の日々を文通と電話でそれでも乗り越えて、地元に帰ってきたキミと、わたしは結婚した。
そして子どもにも恵まれて……。
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なのに、運命は好きだった恋愛小説みたいにはいかなかった。
長患いの末に、キミは若くして逝ってしまった。
「年老いるまで生きていたくない」
そんな口癖を、今更責めてもどうしようもないけれど。
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『金月堂』の閉店後にその前を通り過ぎた。
◆長い間ありがとうございました◆
閉店のお知らせの張り紙が風に揺れていた。
こんなふうに時間の残酷さを知る。
キミと過ごした場所が、どんどん無くなっていく。
キミがいなくなってからは、せめてあの情景のなかにキミの姿を追っていたのに。
学生服のキミとわたしが笑っている。
本屋さんもキミも、もう想い出のなかにだけ。
キミは逝ってしまい、わたしだけが
長い長い年月。
キミのいた風景の残像を見つめながら、わたしは想い出のなかで、ひとり佇んでいる。
〈了〉
キミのいた風景 つきの @K-Tukino
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