拝啓 大切なあなたへ

華ノ月

ある本屋で……。

 チリーン…。


 店のベルが鳴り響く。その音を聞いて店の亭主が顔を出した。


「いらっしゃい」


 店主である老人はそう言って優しい表情で客を出迎える。


「こんにちは」


 店に来たのは一人の女性だった。その女性も店主と変わらないくらいの年齢だろう。ただ、とても品のある優しい雰囲気を纏った女性だった。きちんと着物を着こなしていて、高貴な印象がある。


「今日も『本』を届けに来てくれたのですか?」


 店主が穏やかな口調で言葉をつむぐ。


 女性は鞄を開き、一冊の本を取り出す。


「今日はこちらの本を持ってまいりました」


 女性が丁寧な口調で店主に本を差し出すと、店主はお礼を言って店主も一つの本を差し出した。


「私からはこちらの本になります」


 女性はその本を受け取り、大事そうに鞄にしまう。


「また、お伺い致します」


 女性はそう言って、店を出た。


 店主はその本をパラパラと捲る。


 すると、その本の中に一枚の写真と半分に折られた紙が挟まっている。


 店主はその紙を大事そうに広げた。



『昭文さんへ


 この前の本はとても良かったです。純粋な愛のあるお話しで最後は涙を流してしまいました。

 昭文さんは昔から本がお好きでしたね。私によくお勧めの本を貸してくださったりと、とても楽しい日々でした。


 あなたとの子供である祐樹は立派に育ち、孫も大きくなりました。

 

 本当は大好きなあなたと祐樹を育てたかったです。


 でも、私の家柄の関係であなたと引き離されてしまい、最初はとても辛かったです…。


 ですが、あなたとの子供が私の支えでした。


 そして、偶然立ち寄った本屋であなたにお会いしたときはとても嬉しかったです。


 また、本と一緒にお手紙を書きますね』



 手紙を読み終えた店主の瞳から涙が一筋流れる。


 写真には息子と孫が映っている。




 愛し合っていても結ばれることができないこともある。


 だから、こうして本を介して「文通」を行う。


 これは、ある男と女の純粋な愛の物語。

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拝啓 大切なあなたへ 華ノ月 @hananotuki

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