売人

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

売人の名はカンダタ

「カンダタの兄貴、サーフボード30枚の注文がきてますぜ!」


「デザインは?」


「Hタイプだと」


「あのタイプはバレると徹底的に目をつけられてヤバいからな。目立ちすぎちゃいけねえ。在庫切れだって行って5枚だけにしておけよ」


「了解。いつものようにハワイの業者に送って派手なアートを描かせてから日本に送るんですよね」


「ああ、そうだ」


「カンダタ兄貴、チョッとデカい注文が来ましたが、どうしやす?」


「なんだ?」


「Cタイプ、100kg。300万ドルで」


「うーむ。Cタイプは在庫がけっこうあるからここらで売り捌くのもいいな。まあ、バレてもアレは政府も真剣には取り締まりはしねえから、実質野放しだけどな」


「ただ先方はただのCタイプではなく、CタイプでHやSも混ぜたモノをご希望でして」


「思いっきりやべえ話じゃねえか」


「そうなんで」


「300万ドルじゃ足りねえな。500万ドルだ。イヤなら断れ!OKならきっちり中古のロールスロイスのリムジンに梱包して送ってやる」


「へえ。了解いたしやした」


「兄貴!」


「今度はなんだ!」


「それが、よりによって一番やばい注文です」


「まさか・・・・・・」


「そのまさかです。符牒も使わねえでしかも日本語で『社会心理学』との注文が入りやした。あっしも自分の耳を疑いましたぜ」


「おい、その注文はヤバすぎるだろ!」


「囮捜査だったら一巻のおしまいだぞ!」


「面白い。やってやろうじゃないか」


「「兄貴!」」


「その単語を聞くのも本当に懐かしいぜ。まだその単語を知っているってことは生き残りの同志の可能性がある」


「しかし」


「ブツは俺が選ぶ。返事はこうだ。『うちはサーフィン用品と外車の輸出ディーラーですからおっしゃる意味がよくわかりませんが、シャシーをうんと高くしたモンスタートラックならございます。こちらでよろしいでしょうか』ってな。それでOKならトラックのタイヤに仕込んで送ってやれ。くくく。値段は必要経費だけで、十分だ。そいつ革命を起こすつもりだな」


「なんと!」


「思い出すぜ、50年前を。政府や独占資本の連中が環境保護を理由にペーパーレス化した際に、奴ら書物も全てネット上での電子情報にしやがった。その上で紙の本を完全に違法化して回収してトイレットペーパーにしちまった。全ての情報がネット上で完全に政府と独占資本の統制下に置かれたときにはもう手遅れだった。ヤツら『ビッグブラザー』に不都合な正しい情報は絶対に出てこないし、ヤツらにネット上で反抗しようモノなら即逮捕で処刑だ。ネット上では管理できない、完全にスタンドアローンな紙の本なんか麻薬扱いだ」


「まあ、だから俺たちみたいに日本国外で紙の本を大量に所持しているディーラーは違法販売や密輸で大金が稼げるんすけどね」


「違いねえ!」


「「「わははははは!」」」


「だから、俺たちの商売は違法だが、情報所持の自由のための正義の闘いだ!」


「そうだ、そうだ!」


「ヤツら『ビッグブラザー』がいかに国民を騙して操ってきたのか『社会心理学』を読めばかなりその手口がバレるからな。ただのH(History)やS(Science)、C(Comic)どころの影響じゃないぜ、これは」


「兄貴、じゃあいよいよ!」


「そうだ。蜘蛛の糸のようにどこに行ってもまとわりついてくる情報統制社会の網を、このカンダタさまが引きちぎる。日本国民に真実の情報と、情報所持の自由を取り戻してやろうじゃないか。正義のマフィア『The Last Book Shop』いよいよ日本に逆上陸だ」


「よっしゃあ!」


「ひっひっひ、腕がなりやすぜ」


「ああ!」


 違法組織『The Last Book Shop』の日本での血みどろの闘いが始まろうとしていた。

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売人 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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