きぐるみ戦隊、ただいま登場!
「こいつら、PKだ!」
「新人狩りかよ!」
このゲームをはじめたばかりと分かる初心者装備のパーティを取り囲むのは、真っ黒で威圧感のある装備を身につけた男たち。
新人たちがなすすべもなく倒されそうになっているその時。
「まちなさい!」
眩い閃光のエフェクトをまとって、五つの人影が現れた。
それは六等身の丸みのあるデフォルメされた魔法少女たち。
「あなた達の悪行、わたしたちウィッチーズが見逃さないわ!」
ピシッとPK達を指差して決め台詞を述べながら、センターに立つリーダーの着ぐるみ装備の中で、中の人はガワに負けないうつろな瞳で考えていた。
どうしてこうなった……。
ずっと、ぬいぐるみが大好きだった。
母が言うには生後三ヶ月から、ガーゼのぬいぐるみを離さなかったというから筋金入りだろう。
幼少期からプレゼントにねだるのはぬいぐるみばかりで、子供部屋はあっという間にぬいぐるみが溢れていた。
だが、それを微笑ましいと見てもらえていたのも小学校低学年まで。
成長するごとに「もう大きくなったんだからぬいぐるみは卒業しなさい」と言われるようになる。
卒業ってなんだろうと思いつつも気恥ずかしさもあり、ぬいぐるみが減らされていくのに抵抗しきれなかった。
そうして大人になって幾年月、小さなストラップでぬいぐるみ欲を誤魔化していた時に画期的なVRゲーム、しかもかなり自由度の高いMMOが発表された。
それはまさしく第二の世界、第二の人生!
全感覚没入型でふわふわほわほわの感触も楽しむことができるという。
現実と隔離された場所でとことん趣味に生きても誰にも文句は言われない!
生産スキルを活用することでぬいぐるみが作成できることを確認して、貯金を切り崩しVRMMOに参加した。
クエストを熟し、アイテムを集め、スキルを育ててぬいぐるみを作り、プレイヤールームをぬいぐるみで埋め尽くした。
アバターは十代前半の女の子だ。
本当は幼女にしたかったが、中身が中年男性と思われると聞いて少し年齢をあげた。
そうしてぬいぐるみと戯れる日々に溺れていると、ある日【ぬいぐるみ】というレアスキルが発生した。
何も考えずに秒でスキルを取得する。裁縫スキルのぬいぐるみ特化だと思ったのだ。
違った。
自分自身がぬいぐるみ化するスキルだった。
何に使うんだこれ、と思っていたがぬいぐるみ化している際、ステータスが全て3倍になることを発見した。
結構なぶっ壊れスキルだ。
クエストもこなしやすくなったし、まあいいか〜と活用していたある日。
PK現場に遭遇した。
初心者らしい幼女&少女パーティを取り囲む評判の良くないPKパーティ。
思わずぬいぐるみ化して突入、ステータスゴリ押しでPKKに成功した。
その後、泣きそうになっていた初心者パーティーを慰めようと、ぬいぐるみを召喚して戯れさせていると、彼女たちは先ほどの勇姿を褒め称え、もしよかったら、着ぐるみ変身の方法を教えてもらえないかと聞いてくる。
本当なら強力なスキル取得について聞くのもマナー違反なのだが、少し話して本当の初心者、本当の女の子たちらしいと分かったし、懐かれて悪い気はしないので彼女たちのスキル取得を手伝うことにした。
やることはぬいぐるみを二十体以上作らせ、それらと100時間以上過ごさせることだったが。
そうして面倒を見ているうちに更に慕われ、クランを作って一緒に過ごすうちに相談されたのだ。
「自分たちみたいにPKに絡まれる初心者を助けたい」
彼女としてはそんな面倒なことに自ら首突っ込むの?と言いたかったが、自分達を助けてくれた優しくて強いお姉さん像を壊したくはなかった。
「でも顔と名前が知れてしまうと、色々絡まれてゲームが楽しめなくなるよ?」
「そこで【ぬいぐるみ】スキルです!」
強くなるからいっか〜で放置していた自分と違い、彼女達はこのスキルを研究していたらしい。
そうしてアバターをディフォルメしただけのものではなく、特定のぬいぐるみの姿を反映させることができると発見したのだ。
「きぐるみPKK戦隊ウィッチーズの誕生です!」
嬉々としてロールプレイのための設定やデザインを話し合う彼女達を前に、いい歳の大人に着ぐるみとはいえ魔法少女プレイは辛いんや……とは言い出せなかった。
言い出せなかったのだ。
彼女達の眼差しがあまりにも純粋で。
そうして活動をはじめたウィッチーズは数多のPKを打ち破り、初心者を救うことで知名度を上げていき、中身が女の子らしいという噂もあって更に人気となり……。
今ではなぜか裏方スタッフまで抱える大所帯になっている。
【ぬいぐるみ】スキルに関する情報は秘匿することになっているようで、戦隊人数はそこまで増えてはいないがだがしかし。
ただ、ぬいぐるみと戯れる日々を送りたかっただけの彼女は、今日もきぐるみPKK戦隊ウィッチーズのリーダーとして着ぐるみの中でつぶやく。
「【ぬいぐるみ】卒業したい……」
がんばれリーダー、負けるなリーダー、少女達の憧れの眼差しは、今日も背中に突き刺さっている。
道は思わぬ方に逸れていく 秋嶋七月 @akishima
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