未来本

ゆる弥

未来本

「はぁぁぁ。今日も疲れたなぁ」


 今日は取引先への発注ミスをした部下の代わりに謝罪へ行ったのだった。

 それが仕事だから仕方がないのだが、最近こんなことが多い気がする。


「なんで俺が……」

 

 下を俯いて目を瞑り心を落ち着ける。


 しょうがない。

 金を稼ぐには出世をするのが手っ取り早い。

 上になるということは取引先との付き合いが多くなる。謝罪に行くのが俺の仕事だ。


 好きな読書も、最近仕事も家庭も忙しくてできてないし。

 本を買うにもためらうんだよなぁ。


 重い気持ちで座っていたベンチを立とうと顔を上げる。

 目の前に古本屋があった。

 不思議に思いながらも近付く。


 こんな本屋さっきあったか?


 中に入ってみると、色んなジャンルの本が置いてある。


「すごく雰囲気のある本屋さんだなぁ」


「いらっしゃい。好きに見て行っていいよ」


 人のよさそうな白髪のお爺さんが迎え入れてくれた。


「少し、読んで行ったりしても?」


「あぁ。構わないよ。好きに読んで行っておくれ」


「すみません。ちょっと見させて貰います」


 少し狭い店内に本棚が数個並んでいて人一人通るのがやっとだ。

 本棚を見渡すと気になる厚い本がある。


「ん? 未来の本? なんか胡散臭いな」


 胡散臭いと思いながら手に取って開いて見た。

 中身を見ると、大きめの文字で内容が記載されている。

 

『男性は仕事に疲れ果てていた。頑張るにも限界が近かった。しかし、そこにいい誘いの話が来たのであった。その話に乗った男性は大いに成功して一財産を築き、老後まで豊かに幸せに暮らせたとさ。 おしまい』


 えっ!? 終わり?

 

「有難う御座いました」


 外に出ると知っている方がいた。

 

「あれ? 偶然だなぁ。佐藤さんじゃないですか」


「鈴木さん、ご無沙汰してます」


「丁度連絡しようと思ってたんですけど、一緒に仕事、しません?」


 彼は大手企業の重役だ。

 こんないい話はない!


 振り返ると、先程の本屋は消えていた。


 未来本……か。

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未来本 ゆる弥 @yuruya

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