本当にあった怖い本屋の話

大舞 神

第1話 くたびれた本屋の老夫婦

『本屋』

それは学生の聖域である。

田舎の小さな本屋のラインナップには店主の趣味が多分に反映される。

僕のよく訪れる本屋は駅から外れたくたびれた本屋。

外観もくたびれているが経営者もくたびれている。

そこは老夫婦が営んでいる。

無口な老夫婦だ。


「……」


立ち読みをする僕に挨拶がくることはない。

『いらっしゃいませ』がないのはデフォ。

招き猫のごとく、カウンターに鎮座する老婆。

僕はその存在を無視して『少年週刊誌』を読む。

ここは通常よりも発売が1日早いのだ。


知られざる聖域。


僕はコンビニで読む友達よりも先に読んでいる。


「フフ……」


『少年週刊誌』を読んでおもわず笑ってしまっても、老婆はただ鎮座するだけ。

最高の場所プレイスである。


さてそんな聖域だけど、僕がいるのはほんの入り口にすぎない。

お店の路面に面した新刊、新聞、雑誌のコーナー。

お店の中はコの字に棚が配置され、中央にも雑誌棚が置かれていて導線ができている。 招き猫の老婆は入口左側に陣取っている。


「……」


僕は『少年週刊誌』を読み終えると、何かを探すように店の中を歩き出した。

集中している。

自分の心臓の音が聞こえるほどに。


中央にある雑誌棚は『大人週刊誌』。

釣りや園芸の本が多く老夫婦の趣味が反映されている気がした。

僕はそこの本を取っては戻し、老婆の気配を背で感じることに集中していた。


(……よし)


老婆は微動だにしない。


差し込む日射しは暖かく、老婆の位置は丁度良いお昼寝場所なのかもしれない。

幸せな夢の中にいるに違いない。


(……いくぞ!)


僕は気合を入れて聖域の中のに踏み込んだ。


自己啓発本を乗り越えた先に、ソレらは存在した。

壁の本棚の一角。

ピンク色の本達である。


「……なっ!?」


僕は驚愕した!

そのラインナップに!!


「坊にはちょっと、はやいかねぇ?」


「はっ!?」


気づけば背後にいた老夫婦に僕は壁の裏へと連れていかれたのだった……。

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本当にあった怖い本屋の話 大舞 神 @oomaigod

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