手作り栞は差し上げます!

奈名瀬

『手作りしおり、差し上げます』

 『手作りしおり、差し上げます』

 この一文は呪詛に等しかった。


「ありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げた際、視界に入る栞の在庫。

 いや、在庫と言えば聞こえはいいが、残っている栞の9割は私が作った不格好な綿だった。


「…………」


 余っている子を一枚、手に取ってみる。

 厚紙で作られた妖怪はぴんと背を正しており、作者とは対照的に自信ありげな風貌だ。


「……はぁ」


 自分の好きを他人も好きとは限らないのだと強く実感する。

 怖い系の書籍を買ったお客様が喜んでもらってくれたこともあったけど……奇跡は一度きりだった。 

 仲の良い友達も立ち寄るたびにもらってくれるが、彼一人に全て持ち帰らせては可哀想だ。

 どうしようかと悩んでいたら、


「舞ちゃんの栞、ホント人気ないわね」


 店長の容赦ない言葉が胸に刺さった。


「私的には可愛いと思うんですが……」


 自分だけでもこの子達の味方でいなくては! と弁明した直後、


「……コレ、女子校生が何か一言書いて手渡せばけたりしないかな?」


 なんて迷案を聞かされる。

 あの……女子校生って、うちには私だけなんですが?


「例えばほら、『今日も一日お疲れ様!』とか、若いからもらったら喜ぶ人とかいそうでしょ?」


 そんな単純なものだろうかと首を傾げてしまう。

 しかし、店長は「試しに何枚かやってみましょ」と好き勝手にメッセージを書き始めてしまった。



 翌日。

 仲の良い友達が商品を片手にレジへやってくる。

 会計のため本を受け取ると、彼にしては珍しい伝奇モノだった。


「へぇ……伝奇も読むの?」

「おう。最近、読み始めた」


 彼はすぐに目線を逸らし、「じゃ、もらっていくから」と栞を指さす。


「いつもありがと、ごめんね」


 だから私も普段通りに栞を手渡したのだが……急に、彼の顔が赤くなった。


「……どうかした?」


 そう尋ねつつ視線を一反木綿へ落とす。

 すると、可愛らしい店長の書いた字で『好きです』と書いてあった。

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手作り栞は差し上げます! 奈名瀬 @nanase-tomoya

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