キミがここに来る理由

神凪

素直になれないくせに

 古びた本屋。ここに来るのはおじいちゃんと同じくらいの歳の人ばかり。流行りの漫画を入荷しても、いつも売れ残ってしまうような店だ。

 そんな本屋でもあたしにとっては大切な家で、家族が守ってきた場所だ。だからこうして、現役JKは放課後はここで店番をしている。

 とはいえ今日は月曜日。週明けにうちに本を買いに来るやつなんていない。……いや、一人だけいるな。

 そんなことを考えていたら、店のドアの下につけたベルが揺れた。ご来店だ。


「いらっしゃい。キミ、まだ友達できないの?」

「うるせぇな」

「そういう口の利き方してるから友達できないんだっつってだろー?」

「いや友達くらいいるわ」


 ほんとはそんなこと知っている。キミは昔から他人と距離を上手く縮める人だったから。そういやあたしのときもキミの方から話しかけてきやがったな。


「どーせこれでしょ。週刊少年ステップ。毎週しっかりうちで買っていきやがって」

「どうせ売れ残ってんだからいいだろ。ここが一番安全に買えるんだよ」

「うるせーなー。誰のために入荷してやってると思ってんだこのやろー」


 ほんといつも売れ残ってるんだよ。もっと買って帰れ。そう思いながら、あたしはこっそり取り置きしておいた漫画雑誌を取り出した。


「つか、お前こそいつもここで店番やってて友達とかできたのかよ」

「まあね。まーそこそこー?」

「そうかよ」


 ちょっと怒ってる。あたしに友達ができるのがそんなに嫌か、そーかそーか。


「心配しなくても、キミとは喋ってあげるから」

「うるせぇ」


 ほんとに素直じゃない奴。もうちょい素直になれば、こっちも素直になってやるのに。ばーか、と心の中では言っておこう。


「たまにはステップ以外も買いなよ」

「あー……まあ、そうだな。なんか買うかー」

「ん」


 話をしながらとりあえず漫画雑誌の会計を済ませて、あたしはマンガコーナーへ向かう彼の背を目で追った。基本的に彼はここ以外では本を買わないらしいけれど、ここであの漫画雑誌以外を買っているところはあまり見ない。あっても参考書くらいだ。

 しばらくして四冊ほど漫画を持ってあたしのところに戻ってきた。さて、どんな作品を持ってくるのだろうか。


「ほー、王道のファンタジーじゃん。いーね」

「んだよ」

「いやー? 普通に、いーじゃんと思っただけ。こういう主人公、好き?」

「まあ」


 確かに好きそう。なんだかんだ面倒見はいい方だし、ちょっと似てる気はする。そう思って笑うと、バカにされたとでも思ったのか彼は少し怒ったようにため息をついた。キミはちょっと気が短いんじゃない?


「お前はどういう話、つかどういう主人公が好きなんだよ」

「んー? そだなぁ」


 本屋の娘だけど、あたしはぶっちゃけフィクションはそこまで好きじゃない。それは無理があるでしょ、という話をあたしはそこまで楽しめる方じゃない。

 だから、そうだな。あたしが好きな主人公は……。


「素直になれないくせに好きな子に会いに行っちゃう男の子、とか」

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