たぬきたち
京都に来たのは三年ぶり、中学の修学旅行できたぶりだった。
三年前から比べて私は幾分成長した。その時にはまるで知らなかった多くの人たちと顔を合わせ、笑い合い、そうしてまたいつの間にかその人たちとの別れを済ませていた。
記憶に残っている京都の姿と、今見える京都の姿はほとんど変わっていない。昔泊まったホテルを眺めて、昔見つめた看板を眺めても、記憶とほとんど変わらない。身体的にはあまり成長しておらず視界も違いを認識できるほど変わっていない。あまりにも変わっていないために、これまでの三年間が幻のようにも思えた。ふとそこの角を曲がったら中学の時の友人がいるのではないかという感覚までもあった。
とはいえ京都駅の外に出た瞬間の感覚はあのころとは変わっていた。中学生のころは例の作家のことを知らず、京都にさほどの感慨を持っていなかった。今私の心を占めるうきうきとした心が、瞼の裏をたぬきや作品の登場人物がかけていく。このような感覚を抱いたことはなかった。
この度の一番の目的は『鴨川ブックカフェ』に行くこと。けれど一番最初にその場所に行くのはなんだかもったいないような気がしていたし、聖地巡礼というものもやってみたかった。あれだけ心揺さぶられる作品の舞台となった場所にいるのだから、そう思うのは自然な流れだったろう。私は作者のとある本につけられた地図を見つめながら京都を歩き始めた。
京都という場所は特別な雰囲気を持っていると思う。
古都である割には今なお人があふれており、活気で満ち満ちている。けれども一歩路地に入り込めば静けさと古めかしさが感じられる家々が並び、木々の隙間からは歴史の長い寺院が見え隠れする。今と昔がパッチワークのようにちりばめられて、作品にあるような妖怪の世界に迷い込んでしまうのではないかとも思った。
こんな場所は地元にはなかった。私の地元は他の地域に比べたらある程度の魅力がある場所ではあると思う。けれど今見えるこの街並みにあるような、創作物の世界へと没入していく感覚のようなものを感じたことはなかった。私にとって近代化の窓口となった場所よりも、異界への窓口となっていた場所の方がよほど魅力的だった。
そのうち私は聖地巡礼ということを忘れて、ただ京都の町を歩いていた。京都の町を眺めてあちらへこちらへと歩いていた。それだけで途方もない幸福感を味わっていたのです。
そうして一条通りにたどり着いたとき、そこで私はたぬきに出会ったのです。茶色く丸っこい体つきをしたたぬきの一家で、私を直視しても全く動じない、ちょっと野生動物としてはいかがなものかと思うようなたぬきたちだった。すごく可愛らしかったし、これはすごい運命だと思った。ふつうこんな都会のど真ん中でたぬきに出会うことなんてありえないし、そのうえたぬきというのは例の作家の作品に時折登場するかわいいやつらである。それがぽとぽと、目の前を歩いていたのを直視したこの思いは、言葉には表せないほどのものだった。
普段は運命など信じるわけもないひねくれものの私だったが、今日ばかりはコロッと運命を感じていた。心は全く有頂天、理性など半ば吹き飛んでいた。
そうして私は一途にたぬきストークを始めた。
古本と偶然、不思議な京都 酸味 @nattou
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