The man who bought seven books
大隅 スミヲ
The man who bought seven books
子供の頃、書店といえば個人経営の小さな本屋だった。
すれ違うのもやっとのような狭い店内と、びっしりと本の詰め込まれた本棚かあり、長時間居座って立ち読みでもしていようものなら、ハタキを持った店主にじろりと睨まれたものだ。
いまの時代、本屋というと大手書店のチェーン店が主流であり、商業施設の中に入っているのが当たり前となっている。
広くて通りやすい通路と、ジャンル別に分けられたわかりやすい売り場。漫画本などは立ち読みできないようにビニール袋で閉じられていて、レジも複数台あって、店員たちもお揃いの制服やエプロンで格好が統一されている、どこかお洒落な空間だ。
私が探していたのは、前者の方であり、住宅街にポツンと存在している本屋だった。
未来書店。そう店名の書かれた看板は、塗装がところどころ剥げており、年季が感じられた。
店内に入ると、レジカウンターのところに座って新聞を読んでいた老人が、ちらりとこちらに目を向けたが、私の姿を
本屋に入ると便意を催すという人間がいるという話を聞いたことがある。
しかし、私はそういう体質の人間ではなく、むしろ本屋にいることを心地よく感じるタイプの人間であったため、何時間でも本屋にはいることができた。
本日はこの本屋に来た目的があった。
その目的を果たさなければならなかったため、私は本棚と向き合った。
本棚はジャンルごとに細かく区切られていた。
ただ、どういう順番で本が並べられているのかはわからない。
著者名ごとで並んでいる場所もあれば、本のタイトルが名前順で並んでいる場所もあるようだ。
私は目的の本を探しながら、一冊、また一冊と本を取っていった。
レジに持っていったのは全部で7冊の本だった。
分厚い医学書、家庭菜園の本、歴史書、ミステリー小説、漫画本、アイドルの写真集、ライトノベル小説の7冊。
まったくもってジャンルも、大きさもバラバラである本をレジカウンターに乗せると、私は財布を取り出した。
レジにいた老人は、新聞を読むために鼻の上に置いていた老眼鏡を掛け直し、私の顔を一度だけじっと見てから、7冊の本を手に取った。
「袋はいるかね。紙袋だと5円掛かるが」
「いらない。そのままでいい」
「文庫本にはカバーをかけるかね」
「じゃあ、これとこれはカバーを掛けてくれ」
私はそういって、ライトノベルとミステリー小説を指した。
ライトノベルの方は、俗にいうところの萌え絵な表紙であったため、そのままの状態で持ち歩くのは憚れる気がした。また、ミステリー小説の方は、タイトルに「殺し屋」という言葉が入っていたため、それを隠すようにカバーを掛けることを選択したのだ。
この7冊を選択した人間を私は恨んだ。何を考えて、この7冊にしたのかと。
支払いは現金で払い、両手で抱えるようにして本を持つと、店の前に停めた車へと戻った。
助手席にすべての本を積み終わったところで、肩を叩かれた。
「お兄さん、忘れ物だよ」
そういって老人が渡してきたのは、しおりだった。
私はしおりを受け取ると、老人に手を上げて挨拶をしてから車を走らせた。
たどり着いた場所は埠頭だった。
まわりに他の車はいない。
ルームランプを点けて、先ほど老人から受け取ったしおりを確認する。
しおりには、本のタイトルと数字が書き込まれていた。この数字はページ数のようだ。
本のタイトルは、全て先ほど購入した本のものだった。
しおりに書かれた指示通りに本を一冊ずつ手に取り、指定されたページを開く。
そのページに書かれた文字を読み取りながら、次の本へと手を伸ばす。
その作業を6冊分繰り返すことで、組織からの指示が出てくるというものだった。
私は、とある組織に所属しており、その組織の仕事を請け負っている。
仕事の内容は様々だが、今回の仕事は暗殺だった。
最後にしおりの指示には書かれていなかった、分厚い医学書を開く。
本の真ん中がきれいにくり抜かれており、そこにはリボルバータイプの拳銃が入っていた。
ターゲットの名前と居場所、顔立ちについてはすべてが本の中に書き込まれていた。
あとは実行するだけなのだ。
拳銃を医学書の中に戻すと、私は目的地に向けて車を走らせた。
The man who bought seven books 大隅 スミヲ @smee
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